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日本人

 アディマは、ほっとしたようだった。


 何を心配していたのかは知らないが、景子もその様子に安堵する。


 彼の後方に、ぬぅっとした影が現れる。


 ダイが、少しだけ扉の間から姿を見せていた。


 そこまで来て、景子は自分がこちらの服に着替えていたことを思い出す。


 うわあ。


 カァァっと、一気に耳まで熱くなった。


 こ、これはこっちでは恥ずかしくないんだ。おかしくないんだ。


 自分に言い聞かせても、照れはおさまらない。


 アディマが、そんな景子に不思議そうにした後──何かに気づいたように、彼女の姿を見る。


 何か。


 服装以外の、何物でもないではないか。


 ますます、恥ずかしさに拍車がかかる。


「ケーコ……───」


 アディマは。


 少し嬉しそうに目を細めた。


 似合っているというとか、似合っていないとかではなく、それを旅支度と認識したように思えた。


 景子も一緒に旅をするのだと、ようやく彼が理解したような。


 梅を置いていくことには、本当に心残りがある。


 菊も景子と同行すると言い出したので、本当に彼女は一人になってしまうではないか、と。


『大丈夫、次にあなた方が来る頃には、最高のもてなしが出来るようにしていますから』


 そして、梅は景子の手を取ったのだ。


『私たちは、日本人です。それを忘れなければ、どこででもまっすぐ生きてゆけます』


 ここにも、同じように太陽があるんですもの。


 景子は。


 窓の外を見た。


 明るい日差しが、窓ごしに入ってくる。


 この世界にも、ちゃんと太陽があるのだ。


 夜の月は、少し怖い色をしていたが、太陽の色も数も日本と変わらない。


 彼女のお天道様の目も、何も変わらない。


 少し照れのおさまった頬で、景子はアディマを向き直った。


「アディマ……足手まといかもしれないけど、これからよろしくね」


 ぺこりと頭を下げると、子供ならざる者はゆるやかに微笑んだ。


 懐の、深い深い笑みだった。



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