出世
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偉くなるものじゃない。
ダイは、本当にそう思っていた。
彼に対しての扱いが変わらないのは、イデアメリトスの血筋とリサーくらいで、他は軒並み変わってしまった。
その他の人々の対応が変わることくらいは、まだいいのだが。
先日、長兄が上京してきた。
都の北東部の農村に住んでいる。
弟の出世を、心配そうに見た後、こう言ったのだ。
『都から、お前に嫁を世話したいって人たちが何人も来たぞ』
それぞれに、高価なみやげ物を持って来たという。
父母が踊らされて、あわやダイの知らないところで嫁が決まるところだったらしい。
幸い、長兄が止めてくれたおかげで、事なきを得たのだが。
ダイにも、嫁の話については何件も来た。
全て断ったら、親の方に行ってしまったわけだ。
ダイが近衛隊長になっていなければ、はたまた将来、とんでもない席が自分のために用意されているという話がなければ、こんな縁談は生まれもしなかっただろう。
リサーには、せめて下級貴族以上と結婚しろと釘を刺されていたが。
そういえば。
彼のことを思い出したついでに、ダイの頭の中には違うものがよぎった。
「イデアメリトスの君の、婚礼が正式に決まった……」
ダイの口から言わなくても、彼女の姉妹からすぐに耳に入る情報だろう。
「そうか……それはめでたいな」
笑うような困るような笑みの後、観念したようにキクは笑いで決着をつけた。
「その後、東翼長も結婚するそうだ」
芋づる式に出てきた記憶を、そのまま口からこぼす。
東翼長──それが、いまのリサーの肩書きだった。
イデアメリトスの君の、仕事の全てを取り仕切っている。
しばし沈黙した後。
キクは、星の出始めた空を見上げた。
「どうせ、家柄だけで選んだ結婚だろ?」
つまらなそうな声。
まったくその通りだから、ダイは何のフォローも出来なかったのだった。




