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門下生

「非番の日に、通ってきてよいでしょうか?」


 初入門は、近衛隊の男だった。


 数度、菊と手合わせをしたことのある、剛直そうな男。


 分かりやすいのが来たな。


「相手が見える時間まで、ここは開いているから、好きな時に来るといい」


 次の入門は、子供だった。


「シェローハッシュだ。学校が終わったら、通ってきてもいいか?」


 景子の住んでいた屋敷にいた子である。


 これは、叩き甲斐がありそうだ。


「学校から、『毎日走って』来られるか?」


「あったりまえだ!」


「それじゃ、約束だ」


 菊は、にこりと笑った。


 地獄の約束になった。


 三人目は──エンチェルクだった。


「早朝だけでもいいので……お願いします」


 これには、多少思うところがあった。


 女性だから、受けないという話ではない。


 彼女が、何故剣術を習おうとしているのか、その意図が分かったからだ。


「キツイよ?」


「頑張ります」


 エンチェルクは、拳を握った。


「痛いよ?」


「へ……平気です」


 奥歯を噛みしめる。


「これだけ近い生活をしているとね……途中で心が折れてもやめられないよ?」


 教えるとなったら、菊も手を抜かない。


 途中で彼女が挫折した場合、自分を責めて梅の側から離れてしまう可能性があった。


 それを、菊は危惧したのだ。


 梅は、本当にこの女性を頼りにしている。


 いなくてもやってはいけるだろう。


 だが、彼女を失った事実を、どれだけ残念に考え悲しむだろうか。


「私に出来ることを、ひとつでも増やしたいんです」


 それでも、エンチェルクは折れなかった。


 菊は、苦笑した。


 梅も、女冥利に尽きることだな、と。



 ※




 入門生は7人となった。


 兵士の肩書を持つ男が5人、子供が1人、女が1人。


 立ち上げとしては、こんなものだろう。


 と、油断していたら。


「入門しても……いいか?」


 ダイがやってくるではないか。


 この国の、近衛隊長様だ。


「だめだ」


 即決だった。


 修練中の非番の兵士たちが、戦々恐々と入口の二人を見ている。


 自分たちの隊長までも入門しようと考えていることに、驚き戸惑いまくっていた。


「お前はもう、人に何かを習う人間じゃない」


 逆に言えば。


 菊がダイに教えることなど、何もないのだ。


 技のことだけを取れば、いくらでもまだ余地があるのは分かっている。


 だが。


 彼ならば、実践で戦っていけば、勝手に覚えてゆく基礎は身についていて。


 そして、精神の修練などに至っては、菊が教えることなどないと思っていた。


 ダイは、自分が強いことは知っているが、強すぎないこともまた知っている。


 何よりも、それが重要なことだ。


 だから、自分の肩書などを気にせずに、こうして腕を磨こうとしているのである。


「ただし……相手をしにきてくれるのは、いつでも歓迎だ」


 菊も、まだ上を目指さなければならない。


 それには、強い相手が必要だった。


 ダイやトー、それとロジューの子飼いの隠密。


 そこまで思った時。


「そういえば……トーはどこへ行ったんだ?」


 いつの間にか、都から姿を消していた。


「それを、俺に聞くのか……」


 ダイが、ぽりぽりと額をかく。


「イデアメリトス認可の楽士だろ?」


 知らないはずはないよな、というニュアンスで聞くと、彼は苦笑を浮かべる。


「しばらくは隣領にいたようだが……いまは、西に向かったようだ」


「そうか……足はまだついてるか」


 あながち冗談ではないことを口にしながら、菊は笑った。


 また、どこかへ歌いに行ったのだろう──自分の命を賭けて。

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