引っ越し
☆
「そうかい、一緒に暮らせるようになったのかい」
ネラッサンダンは、嬉しそうに言ってくれた。
子供は宮殿に預け、景子は一度下宿先に帰って来たのだ。
この後、またささやかな荷物を持って、宮殿に向かうことになる。
そんな彼女の横にいるのは、リサー。
叔父に、状況を報告するためだろう。
「なんでー、もうチビたちいなくなるの? ケーコもいなくなるの?」
シェローが、泣きそうな顔で景子にしがみつく。
ここしばらくで、随分お兄さんになったが、やっぱりまだ子供だ。
「大丈夫、また会えるわ……この都にいるんだから」
膝を折って、景子はそんなシェローの頭を撫でる。
そんな彼女の言葉を、リサーが嫌そうに見下ろしている。
「旦那と子供と一緒に暮らせるのが一番だよ……うんうん、よかったね」
本当の旦那を知らないネラッサンダンは、息子を完全無視したまま、晴れやかな笑顔を向ける。
そんな親子と雑談を交わしている間に、リサーはいなくなってしまった。
叔父のところだろうか。
ひととおり、荷物の片付けが済んだところで。
「げっ」
シェローが、いやな声を上げた。
その声に、扉の方を振り返ると──リサーとその叔父が立っていて。
シェローは、慌てて自分の姿を隠そうとした。
彼は、この家では厄介者として扱われているのだ。
ネラッサンダンも、突然の主人の訪問に慌てふためいている。
下宿人が出て行くごときで、主人が来るとは思ってもいなかったのだろう。
あっと、景子は居住まいを正した。
「長い間、置いていただき、本当にありがとうございました! お世話になりました!」
精いっぱいの御礼を、言葉で表現しようとすると。
不思議なことが起きた。
「そ、そ、そ、そんなことはなさらないでください!」
あの、リサーの叔父が、慌てふためいて景子の頭を上げさせようとしたのである。
ありえない光景に、親子が固まってしまった。
あー。
嫌な感じに、景子は困った汗を流す。
言ったんだ。
リサーは、叔父に言ってしまったんだ。
景子の今後のことを。




