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父と子

 そして。


 ついに、アディマからのお呼び出しとやらがやってきた。


 どうやって、二人を抱えていこうかと悩んでいた景子は、それが杞憂であることが、すぐに分かった。


 到着した荷馬車から、梅と菊が現れたのである。


「チビたちを迎えに来たよ」


「こんにちは、ハレくん、テルくん」


 二人がいるだけで、なんと心強いことか。


 ハレは梅に、テルは菊に。


 最初から、そこが収まる場所であったかのように抱き上げられるのだ。


 ふにゃふにゃと、ハレが梅の腕の中でみじろいだ。


「ふふふ、何かをしゃべろうとしているのかしらね」


 梅の母性的な色が、ほのかに浮かび上がる。


 はぁ。


 それに、ゆっくりと景子はため息をついた。


 何だか、安心してしまったのだ。


 リサーには脅しをかけられてたし、元々この子たちは、アディマと結ばれる口実のような存在だった。


 産んでしまった今は、もはやそんな考え方は出来なくて。


 ただただ、この子たちを元気に育てたい。


 そう思っている。


 だが。


 アディマの立場を考えると、景子の意見が簡単に通るとも思えなかった。


 だから、いろいろ不安を抱えていたのだ。


 でも。


 この子たちの父親は、アディマだから。


 景子の好きになった彼だから。


 きっと、この子たちに悪いようにはならないんじゃないか。


 そう、思った。


 そこに、梅と菊が来てくれたのだ。


 景子の恐れるものが、裸足で逃げだしそうなゴッドマザーたち。


 大丈夫。


 アディマに、息子たちを見せに行こう。


 そんな気持ちで、景子は荷馬車に乗り込んだのだった。



 ※



「久しぶりだね、ケイコ」


 アディマは──変わらなかった。


 人払いされた東翼。


 案内されたのは、五人。


 景子、梅、菊。


 それと、ハレとテル。


「久しぶり……」


 二人きりではないので、顔を合わせるのは少し照れる。


 でも、彼が考え込んだ様子や、暗い素振りを見せないのは嬉しいことだった。


 子供の事で、アディマを悩ませているのではないだろうか。


 そう考えたこともあったので。


「兄はどっちだい?」


 菊と梅の腕の中の赤ん坊を見ながら、彼は苦笑した。


 双子ならではの悩みに、困惑しているのだろうか。


「こちらのハレです」


 梅が、腕に抱いた子を差し出す。


「ハレ?」


 仮の名を、梅が堂々と口に出すものだから、景子は焦った。


「はい、私達の国の言葉で、太陽の差すよい天気という意味です」


 語源まで説明するものだから、なお景子は冷や汗をかく。


「あ、あの……アディマ、これはその……」


 勝手に名前をつけたわけじゃないのだと、そう言い訳をしようとしたら。


「そうか。いい名だね。では、みなにハレと呼んでもらえる名にしよう。この子は、ケイコに似ているな」


 あっさりと。


 アディマは、本当にあっさりと、その名前を受け入れた。


 いいんだろうかと、景子が戸惑ってしまうほどに。


「テルです。太陽が差す様を表す名前です。とびっきり、元気がいいですよ」


 菊が、弟を差し出す。


「ああ、こっちは僕の血がはっきり出ているな。ほくろが二つ……皆が忘れない子になるだろう」


 アディマは、赤ん坊を一人ずつ抱いてくれた。


 ハレ、テル、お父さんだよ。


 それを、言葉に出して許されることか分からないけれども。


 景子は心の中で、子供たちに言ったのだった。


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