観戦
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「何かやっているのか?」
アディマは、騒がしい外の気配に、側仕えの少年に問い掛けた。
外に遣いに出してから、彼はそわそわしっぱなしだったのだ。
東翼全体も、浮き足だっている。
「あ……近衛隊長が、誰かと手合わせしているようで……その」
気になってしょうがないように、外の音に耳を伸ばしている。
ダイが?
彼が、人前で手合わせをしている事実が、少し気になった。
目立ちたがる性格ではないし、人前で部下を叩き伏せる性格でもない。
誰か、腕の立つ軍令府の軍人でも来ているのだろうか。
アディマは、側仕えを伴って二階に上がり、バルコニーに出た。
旅に出る前、彼はここからダイを見ていたのだ。
近衛兵たちが、歓声をあげていた。
木剣を持つダイと対峙しているのは――ああ。
アディマは、微笑んだ。
一目で、納得する相手だった。
キクだ。
不思議な構造の服を着ている。
彼女らの国の、独特の服。
長く広い裾に風をはらませ、鋭く踏み込む細い身。
微風のように、時折、竜巻のように、キクは木剣を振り出す。
この国の剣技とは、根本的に違う動きだ。
だが、身体が小さくとも、力が弱くとも、戦う方法はあるのだと、キクは証明している。
女性の身でありながら、彼女はダイに一歩も引かない戦いを繰り広げているのだから。
相対するダイは、堂々たるものだった。
キクより速く動けないことを分かっている彼は、どっしりと腰を据えて、剣を真正面から受け止めるのだ。
一発決まれば、ダイの勝ちだろう。
斬ることの出来ない木剣では、キクの方が不利だ。
だが。
その木剣は、まるで矢のように、まっすぐダイの喉元にすっ飛んだ。
ミシィッ!
その切っ先を、剣の中央で受ける隊長もまた、さすがとしか言いようがない。
歓声があがる。
アディマの真横からも。
側仕えの少年は――慌てて自分の口を押さえたのだった。




