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つうじない言葉

 はぁ。


 部屋を出て、景子は頭を抱えた。


 筋道立てて考えようとしても、大前提がめちゃくちゃ過ぎて、まとまるものもまとまらない。


 大体。


 アディマが旅を続けるとして。


 あの子供ならざる者は、一体どこへ向かおうとしているのか。


 高貴な身分そうなのに、たったあれだけの従者で。


 また、昨夜のような敵に追いかけられたら、命の保証はないのに。


 うーん、うーん。


 悩んでいてもしょうがない。


 景子は、途中で頭を抱えるのをやめた。


 アディマと話をしよう。


 そう、結論づけたのだ。


 言葉は分からないが、身ぶり手ぶりを交えて話をすれば、きっと通じるはずである。


 最初に、名前を教え合ったように。


 すっかり顔パスになったのか、彼女がちょろちょろしていても使用人で咎める人はいなかった。


 朝からずっと双子の世話などで、使用人の間を駆け回っていたおかげだろう。


 ここで働くっていうのも、悪くなさそうなのよね。


 そんな、労働根性のしみついた景子は、ようやくそれらしい部屋を探しあてた。


 何しろ。


 部屋の前には──ダイが座っていたのだから。


 中の人を守っています。


 そんな彼が守る相手など、アディマしかいないではないか。


 とととっと近づくと、彼が景子を見た。


 ずっと前に一度見られたのは知っていたが、この部屋に用があるとは思っていなかったのだろう。


 鞘におさめた剣を抱えたまま、彼女を見上げる。


「こんばんは、ダイさん。アディマいますか?」


 梅を見習って、堂々と日本語で通してみる。


 だが、名前だけは伝わるだろう。


 彼は視線を一度、後ろの扉に向けたが──首を横に振った答えが返ってきた。


 あー、ダメなのかあ。


 そっかあ。


 しょんぼりして、景子が元来た道を戻ろうとした時。


 ドアが、開く音がした。


「……ケーコ」


 アディマだ。


 景子が、ぱぁっと顔を輝かせた向こう側で。


 ダイは、俺は知らん、何も見てないという風に──あらぬ方を見てしまった。



 ※



 ちょっと、緊張するなあ。


 ソファを勧められて、アディマの向かいに座りながら、景子はどきどきしていた。


 彼女は、最初からアディマを子供として見ていないので、一人の人間を改まって訪問した形に思えたのだ。


 ダイの様子からすると、この訪問は余り歓迎されてはいないようで。


 さっさと済ませた方がいいのだろう──が。


 目が合って、景子は照れ笑いを浮かべてしまった。


「あ、あのね……アディマ」


 言おうとしていた言葉が、半分頭の上にすっ飛んでいってしまいそうになるのを、何とか掴んで引き留めながら、彼女は言葉を紡いだ。


「アディマは、これから何処へ行くの?」


 言ってみて、失敗したことに気づいた。


 ああ──紙が欲しい。


 切実に、そう思ったのだ。


 エプロンは外して置いてきたが、そこのポケットに作業用のボールペンが1本と、端数になって分けておいた種の袋は入っていた。


 要するに。


 絵を描く筆談以外で、この思いを伝える手段を持っていないことに、景子は気づいたのである。


「ケーコ……───?」


 アディマも、何かを問いかけてくるが、何が言いたいのか全然分からない。


 名前のようには、いかないのだ。


 お互い、聞きたいことはたくさんある。


 それは、分かる。


 向こうからすれば、彼女らの方こそ、得体が知れないことだろう。


 言葉、かぁ。


 ふぅと、景子はため息を吐きながら、ソファに深く身体を埋めた。


 逆に、ゆっくりとアディマが立ち上がる。


 そして、彼女の側へと回ってきた。


「ケーコ……───」


 何かを語りかける瞳で、隣に座る。


 その猫目石の瞳には、心をかき乱す効果でもあるのだろうか。


 近ければ近いほど、どきどきしてしまう。


 こんなに艶のある目をした人を、知らなかった。


 その瞳のアディマが、彼女に何かを求めている。


 それは、何となく伝わっていた。


 一緒に行こう。


 そう言っているのだろうか。


 見つめられると──非常に断りづらい誘いだった。

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