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未来の話

 ロジューの部屋に入ると──彼女は、自分のお腹に金の炎をあてていた。


「具合……悪いんですか?」


 赤ん坊のいるお腹に、魔法を使うのは大丈夫なのだろうか。


 景子は、少し不安になった。


「ああ、いや……昔のツケを払っているだけだ、気にするな」


 気だるそうに答えつつ、ロジューは向かいのソファを顎で指す。


 突っ立ってないで座れ、ということだろう。


「面白い同胞を持っているな……こんな身でなければ、戦ってみたいと思ったぞ」


 くくっと、彼女は何かを思い出したように笑う。


 戦ってみたい、などという不穏な言葉もついてきたが。


「菊さん……ですか」


 景子は、困って笑うしか出来なかった。


「ああ、そうだな。髪を伸ばし整えれば、美しい女剣士として名を馳せることも出来よう……本人に整える気がないのが勿体ないことだがな」


 本人が聞いていたら、即座に辞退したがるような内容を、ロジューは惜しそうに語り始める。


「男を知らんままだな……男と二人旅をしておきながら、お堅いことだ」


 あ、いや、そこまで言ったら、余計なお世話じゃ。


 相変わらずのロジュー節に、景子は突っ込めないまま遠い目をした。


「とりあえず、トーという男はここでは判断せずに、都に連れて行くことになった。兄者に引き合わせる」


 ふざけた話をやめ、彼女は本題に入る。


 トーという男のことだ。


 アディマの父親に、判断を託すことになったのだろう。


「愚甥の名誉のために言っておくが……あやつは、自分の手で殺すことを恐れたのではないぞ」


 イデアメリトスが、何を名誉としているかは知らないが、ロジューは少なくとも恐れからアディマが決めあぐねたのではないと言っているようだ。


「あやつは、『殺すより良い使い方がある』と考えたのだ。だが、その決定は兄者でないと出来ぬからな。だから連れてゆく」


 ロジューは、金の炎を止めながら、ふぅと吐息を吐いた。


 殺すよりも良い使い方。


 景子には、とても届かない位置にある言葉。


 だが、アディマは──それを考えなければならない人間なのだ。



 ※



「アディマ……?」


 景子は、彼の部屋を訪ねた。


「ああ、ケイコ……おはよう」


 アディマは、薄く微笑んだ。


 いろいろ考えていたのだろう、その表情には多少の疲れが見て取れた。


「菊さんと……トーさんに会ってきたわ」


 そう話しかけようとすると、彼は近づいてきて言葉ごと、ゆるやかに抱きしめてくれる。


「そうかい……ケイコには、どう見えた?」


 優しい、優しい声。


 それは、自然な優しさというより、優しくあろうと努力してくれているもの。


 疲れているのに、景子に心配をかけまいとしているのだ。


「うん……双子だって言われた」


 えへへ。


 彼女は、はにかんだ。


 菊が、まったく疑いを持っていない人が、そう言ったのである。


 景子が、どうして疑えようか。


「え?」


 質問と答えの噛み合わなさに、アディマは面食らったようだ。


「うん、そのトーさんがね……私のお腹の中に二人いるって」


 抱きしめていた腕がゆっくりと解かれ、彼は景子の瞳を一度見て、それからまだ目立たないお腹へと視線を下ろす。


「そう……か。双子か」


 目は、微笑みに緩んだ。


 ああ、よかった。


 双子が不吉とかだったら、どうしようかと思っていた。


 そんな、昔見たマンガの設定を頭によぎらせつつも、景子は釣られて微笑む。


「菊さんと梅さんが、一人ずつ祝福してくれるって」


 アディマは、難しいことを沢山考えている。


 景子に言えるのは、こんな他愛もないことだ。


 けれども、彼が本当に自然と微笑んでくれるなら、こんな他愛ないことでも輝くのだ。


「そうか……それなら僕は、二人を同時に祝福しよう……だが、一つ困ったことがあるな」


 ふと、彼は考え込んだ。


「え?」


「いや……もし2人がイデアメリトスの権利を持っていたら……同時に捧櫛の神殿へ旅立たなければならないだろう?」


 顔を見合わせる。


 その様子は、我が子ながらとても滑稽に見えて。


 顔を見合わせたまま、二人で笑ってしまったのだった。

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