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男の二人組

 ロジューが、都に来ているという。


 景子が、都に戻ってから一月ちょっと。


 正式に、農林府に連作障害対策の試験の指示が下り、細かい作業手順をまとめ終えたばかりの頃だ。


 そんな中、農林府に宮殿からの遣いの荷馬車がやってきた。


 そして、ロジューの名の下に、景子は簡単に拉致されたのである。


 あああああ、まだ、あれとあれとあれも終わってないー。


 心残りの仕事を、指折り数えている内に、彼女は宮殿へと運びこまれてしまったのだった。


 西翼のロジューの部屋へと案内されると、そんな景子の心も知らない女イデアメリトスが、悠然とソファにうずもれているではないか。


「久しいな」


 呼びつけることには、1ミリの罪の意識もなく、ただ彼女は再び会えたことに微笑むのだ。


「お久しぶりです。お身体は平気ですか?」


 景子は、もはや諦めた。


 せっかく、ロジューと再会出来たのだ。


 彼女の秘密を共有する、数少ない人である。


 そういう意味では、一番気楽に話ができるだろう。


 イデアメリトスの血筋を相手に、本来なら気楽もへったくれもないのだろうが。


「ああ……ときどき気分が悪くなるがな。ケーコは平気なのか?」


 つわりなのかなあ、と景子は想像しながら、こくりと頷いた。


 幸い、彼女にはまだつわりは訪れておらず、自分が本当に妊娠しているのか時々不安になるほどだ。


 だが、いまだおなかはぴかぴかと元気だった。


「今回、都に来たのはな……」


 ロジューが本題に入ったので、景子は自分のおなかから彼女へと視線を戻した。


 都へ来るのは、そんなに好きではないような彼女が、再びやって来たのだ。


「私の妊娠を、正式に報告するためだ。イデアメリトスの肩書を持つ者が、こっそり産むわけにもいかぬからな……さて、どうしてくれよう」


 軽く自分のおなかを撫でながら、ロジューはニヤリと笑う。


「便宜上は、愚甥の子としておく方が便利なのだがな」


 そのニヤニヤの目は、漏れなく彼女に向けられるのだ。


 あはははは。


 久しぶりのロジュー節に、いとも簡単にいやな汗を流させられる景子だった。




 ※



「そういえば、スレイが面白い話を持ってきたぞ」


 ロジューは、ふと話を変えた。


 スレイとは、景子の夫役であり、彼女のおなかの子の父親である黒褐色の肌を持つ男だ。


「北の中季地帯の方から、奇妙な噂が流れてきているらしい」


 その声は、面白がるようであり、何かを探るようであり。


「何でも、奇跡を起こす歌を歌うものがいる、とか」


「はぁ……」


 景子は、首をかしげながら、頼りないあいづちを打った。


「何だ、お前も北の中季地帯の辺りから来たと聞いていたから、知り合いかと思ったら違うのか」


 彼女から、何か情報が得られると思ったのだろう。


 奇跡というものを、ロジューは魔法だと判断したのか。


 い、いや、日本人ってそんなに魔法使える人いませんから。


 自分のこの能力が、普通ではないのだ。


 しかし、そんなことをロジューが知るわけもない。


「男の二人づれで、片方は珍しい剣を使うというが……面白そうだとは思わんか?」


 奇跡の歌の2人組は、どうやら彼女の興味を大きく引いたらしい。


 だが、景子がひっかかったのは、『珍しい剣』という方だった。


 あれ?


 彼女の想像の中に、ある人物が浮かび上がったのだ。


 男ではないが、よく間違えられる女性だった。


 ま、まさか。


 彼女が、歌で奇跡を起こせるとは思えない。


 だが、ロジューは言ったではないか。


 二人づれ、と。


 もう一人の男が誰であるか、景子が想像つくはずもなかった。


 菊が、誰かと一緒に旅をしているのだろうか。


 森で出会った、アルテンとかいう人だろうか。


 景子は考えに夢中になるあまり、つい無意識でうなってしまっていたようだ。


「まんざら、まったく心当たりがない、というワケでもなさそうだな」


 ロジューが、視線をこちらに向けて楽しげに目を細め始める。


「その珍しい剣を持った人が、実は女性というのなら心当たりはあります……」


 既に──景子の頭には、すっかり菊の姿が焼き付いていたのだった。

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