男の二人組
☆
ロジューが、都に来ているという。
景子が、都に戻ってから一月ちょっと。
正式に、農林府に連作障害対策の試験の指示が下り、細かい作業手順をまとめ終えたばかりの頃だ。
そんな中、農林府に宮殿からの遣いの荷馬車がやってきた。
そして、ロジューの名の下に、景子は簡単に拉致されたのである。
あああああ、まだ、あれとあれとあれも終わってないー。
心残りの仕事を、指折り数えている内に、彼女は宮殿へと運びこまれてしまったのだった。
西翼のロジューの部屋へと案内されると、そんな景子の心も知らない女イデアメリトスが、悠然とソファにうずもれているではないか。
「久しいな」
呼びつけることには、1ミリの罪の意識もなく、ただ彼女は再び会えたことに微笑むのだ。
「お久しぶりです。お身体は平気ですか?」
景子は、もはや諦めた。
せっかく、ロジューと再会出来たのだ。
彼女の秘密を共有する、数少ない人である。
そういう意味では、一番気楽に話ができるだろう。
イデアメリトスの血筋を相手に、本来なら気楽もへったくれもないのだろうが。
「ああ……ときどき気分が悪くなるがな。ケーコは平気なのか?」
つわりなのかなあ、と景子は想像しながら、こくりと頷いた。
幸い、彼女にはまだつわりは訪れておらず、自分が本当に妊娠しているのか時々不安になるほどだ。
だが、いまだおなかはぴかぴかと元気だった。
「今回、都に来たのはな……」
ロジューが本題に入ったので、景子は自分のおなかから彼女へと視線を戻した。
都へ来るのは、そんなに好きではないような彼女が、再びやって来たのだ。
「私の妊娠を、正式に報告するためだ。イデアメリトスの肩書を持つ者が、こっそり産むわけにもいかぬからな……さて、どうしてくれよう」
軽く自分のおなかを撫でながら、ロジューはニヤリと笑う。
「便宜上は、愚甥の子としておく方が便利なのだがな」
そのニヤニヤの目は、漏れなく彼女に向けられるのだ。
あはははは。
久しぶりのロジュー節に、いとも簡単にいやな汗を流させられる景子だった。
※
「そういえば、スレイが面白い話を持ってきたぞ」
ロジューは、ふと話を変えた。
スレイとは、景子の夫役であり、彼女のおなかの子の父親である黒褐色の肌を持つ男だ。
「北の中季地帯の方から、奇妙な噂が流れてきているらしい」
その声は、面白がるようであり、何かを探るようであり。
「何でも、奇跡を起こす歌を歌うものがいる、とか」
「はぁ……」
景子は、首をかしげながら、頼りないあいづちを打った。
「何だ、お前も北の中季地帯の辺りから来たと聞いていたから、知り合いかと思ったら違うのか」
彼女から、何か情報が得られると思ったのだろう。
奇跡というものを、ロジューは魔法だと判断したのか。
い、いや、日本人ってそんなに魔法使える人いませんから。
自分のこの能力が、普通ではないのだ。
しかし、そんなことをロジューが知るわけもない。
「男の二人づれで、片方は珍しい剣を使うというが……面白そうだとは思わんか?」
奇跡の歌の2人組は、どうやら彼女の興味を大きく引いたらしい。
だが、景子がひっかかったのは、『珍しい剣』という方だった。
あれ?
彼女の想像の中に、ある人物が浮かび上がったのだ。
男ではないが、よく間違えられる女性だった。
ま、まさか。
彼女が、歌で奇跡を起こせるとは思えない。
だが、ロジューは言ったではないか。
二人づれ、と。
もう一人の男が誰であるか、景子が想像つくはずもなかった。
菊が、誰かと一緒に旅をしているのだろうか。
森で出会った、アルテンとかいう人だろうか。
景子は考えに夢中になるあまり、つい無意識でうなってしまっていたようだ。
「まんざら、まったく心当たりがない、というワケでもなさそうだな」
ロジューが、視線をこちらに向けて楽しげに目を細め始める。
「その珍しい剣を持った人が、実は女性というのなら心当たりはあります……」
既に──景子の頭には、すっかり菊の姿が焼き付いていたのだった。




