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見送り

 叔母の出立の前。


 アディマは、見送りと称して西翼に顔を出していた。


 叔母であり、第一妃候補の部屋へ顔を出す事に、誰一人と違和感を覚える者などいない。


 それどころか、東翼でほとんどの使用人が出入り禁止になっている二日間、ロジューが彼の部屋にいたのではないかと、まことしやかに噂になっていたのだ。


 部屋に入ると、そこには出発の準備を済ませた叔母と──ケイコがいた。


 彼女は、一瞬アディマを見た後、恥ずかしそうにうつむいた。


「お発ちになられるのですね、叔母上様」


 それに微笑みながら、彼はロジューに挨拶をする。


「挨拶とは、顔をこっちに向けて言うものだ」


 挨拶など、ただの隠れ蓑に過ぎないことを知っている叔母は、まったくもって容赦がなかった。


「ケイコ……身体は平気かい?」


 そんな叔母の厭味をさらりと流し、今日荷馬車に揺られる身を案じる。


 頬の色が赤く染まって、とても輝いて見えた。


「歩いて帰るんじゃあるまいし……甘やかすなと言っておるだろうが」


 具合が悪くなったら、荷馬車でいくらでも寝られる。


 どうにも叔母は、アディマが彼女に構いすぎることを、快く思っていない。


 イデアメリトスの世継ぎだからなのか、単なる彼女の性格によるものなのかは、よく分からなかったが。


「大丈夫よ……アディマ……」


 いつも通り、元気な顔をするケイコが、しかし余韻を残すように言葉を失った。


 落ち着かなく目が動く。


「何か……あったのか?」


 そう悪いことがあったようには思えなかったが、アディマは気になって問いかけてみた。


 明日からは、問うことさえ出来ないのだから。


「あ……あのね……あの……」


 ケイコが、視線を落とす。


「言っておいた方がいいのか……分からないんだけど……間違ってるかもしれないんだけど……」


 視線を上げ、何度も戸惑いに唇をよどませながらも、アディマに何かを伝えようとする。


「あのね……ここが……光ってるの」


 ぴかぴかって。


 ケイコの両手は──おなかにあてられた。



 ※



 ケイコは──命の光を見ることが出来る。


 アディマは、とても強く光っていると、彼女は言っていた。


 その光のように、彼女のおなかが光っているというのだ。


 ああ。


 叔母が、そこにいるというのに。


 アディマは、ソファに座るケイコに覆いかぶさるように抱きしめていた。


「ああ……なるほど、それがその娘の魔法とやらか」


 これまで、叔母は彼女の魔法について、問い詰めなかったのだろう。


 今頃、理解したようだ。


 そもそも。


 ケイコの魔法は、イデアメリトスとは根本からして違う。


 ただ、視るだけの魔法。


 自分から、働きかける魔法は持っていないのだ。


 それでも。


 こんな風に、イデアメリトスでさえ分からないことを、彼女は分かるのだ。


 素晴らしい魔法ではないか。


 命が。


 ケイコの中で、新しい命が息づいている。


 胸には喜びと同時に、側においておけない不安と寂寥でいっぱいになった。


「叔母上様……ケイコをよろしくお願いします」


 彼女から腕を離し、アディマは叔母を振り返る。


「だから、甘やかすなと……ちゃんと産まれるべき定めを持っているなら産まれるわ」


 甥に厳しい彼女は、そんなことを言いはするが──きっと、景子を守ってくれるに違いない。


 分かってはいるのだ。


 分かってはいるのだが、側についていられない、己の身がもどかしかった。


「時間を作って訪ねていくよ……」


 ケイコの方を振り返り、膝立ちになってその手に触れる。


「来なくていい」


 後方から、即座に厳しい声が飛ぶ。


「第一妃候補ですから、叔母上様は……ご機嫌伺いに参りますよ」


 ケイコの手を取り、ケイコの目を見つめながら、あらぬことを言い放つ。


 だが、愛する女性を前に、妃候補などという言葉を使ってしまった事に、アディマは気づいた。


 不快になっただろうか。


 ケイコを見つめると。


 彼女は、おかしそうに目を伏せながら笑ってくれた。


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