気合
☆
「まったく……甘やかしすぎだ」
景子を自分のベッドにぽいと投げ捨てながら、ロジューはその縁にどすんと腰かけた。
「すみません……」
自分が怒られている気がして、彼女は小さくなる。
そんな彼女を、文字通り上から見下ろす。
じろじろと不躾なほど。
「まあ……いい。毒が抜けたばかりで、湯浴みまでしたんだ。その上、愚甥にこんな時間まで好き放題されたなら、歩けなくなっても当然だな」
ふぅ。
顰めっツラのまま、彼女は天を仰いだ。
あうう。
ロジューの表現に、不適切なものが混じったことに気づき、景子はもっともっと小さくなった。
何が起きたのか、知っている人間がいるということに、どうしても慣れない。
イデアメリトスの世継ぎであるアディマには、プライバシーはとても少ないのだ。
「もう、今日はここでいいから寝ろ。あと1日しかないんだ……明日に備えて休め」
掛布を放り投げながら、ロジューは景子に言いたい放題だった。
っていうか。
「あと1日……?」
ひっかかった言葉を、景子はつい唇に乗せていた。
「明後日、帰ると言っただろう? お前が愚甥と子を成せる機会は、とりあえず明日までだ」
うわあ。
風情もへったくれもなく、ロジューに語られて、景子は微妙な顔になってしまった。
「気合で懐妊しろよ……でないと、また都へ行く手間がかかるからな」
こづかれて、睨み下ろされる目に耐えかねて、彼女はあらぬ方へと目をそらす。
そっか。
明日でダメだったら……またアディマに会えるのかぁ。
ふと、そんな不謹慎なことを考えてしまった。
胸のあたりで、ほわほわするその感覚を、景子が抱きかかえていると。
「くだらないことを、考えている顔だな」
ロジューは──見逃してはくれなかった。




