おやすみ
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「過保護なことだな……」
叔母が、窓を開けていた。
早く入れと言わんばかりに、身を引くその窓辺に──アディマはケイコを抱いたまま舞い降りたのだ。
ほぉっと、腕の中の彼女がようやく緊張を解いた。
飛ぶ説明をしていなかったための驚きと、高いところが怖くもあったのだろう。
すまないという意味も込めて、その額に軽く唇を押しつける。
「さっさと置いて帰れ……初日の夜なんだぞ」
そんなアディマの様子に顔を顰めながら、ロジューはしっしと手を振る。
そして、叔母はケイコのふらつく身体を受け取るのだ。
「太陽を……」
体力を戻せないでいる彼女には、太陽の力が必要に思えた。
時間的に、東翼では出来なかったことを、アディマはここでやろうと思ったのだ。
「このくらい、寝てれば治る……甘やかしすぎるな」
なのに。
叔母は、ケイコの顔を一度覗きこんだ後、そう言い放った。
「あ、アディマ……大丈夫だから」
ロジューの腕の中で、彼女もまた薄く微笑むのだ。
ああ。
後ろ髪が、引かれてしょうがなかった。
どんな理屈をつけても、出来る限り離れたくなかったのだ。
幸福と不安が、同時に彼の中にある。
いま、彼女を正式に妻と出来ないアディマは、すぐにまたケイコを、手放さなければならないのだ。
しばらくは、隣領の叔母の家にいることになるだろう。
アディマの立場上、気軽に会うことは出来なかった。
ケイコに会うために残された時間は、あとたった1日。
だから、一秒でも長く、長く側にいたかったのである。
「さあ……本当にもう終わりだ、帰れ。魔法の身も、慎めよ」
扉の釘を打ちつけるように、ロジューは甥に顎で早く行けと言う。
「ケイコ……おやすみ」
何とか、それをアディマは喉から絞り出した。
「おやすみ、アディマ」
帰らなければならない身が、夜風に切り裂かれる。
一人飛ぶ宵の風は──わずかも優しくはなかった。




