二度目
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口づけは、二度目だった。
一度目のことを、おそらくケイコは知らないだろう。
その時の彼女は、ベッドで身体をむしばんだ毒の後遺症と闘っていたのだから。
痛々しいほど小さく見えるその身体が、とても愛しかった。
出来うる限りの痛みをやわらげながら、その愛しさにアディマは引き寄せられてしまったのだ。
可愛らしいケイコ。
握っていた両の手を離し、その身体を抱きしめる。
小さく震える彼女は、自分の手のやり場も失ったまま、ただアディマに抱かれていた。
「ケイコ……」
その髪に、唇を寄せる。
花にも似た香油の香りが、彼の鼻をくすぐった。
「……アディマ」
胸の中で、彼女が消え入りそうな声で、名を呼んでくれる。
「アディマ……大好きよ」
愛しい唇、愛しい声、愛しい吐息が、彼への愛を紡ぎあげた。
それだけで、アディマの胸は震え、身体さえも震わすのだ。
ああ。
ケイコと出会ったのは、夜。
彼女は、太陽に連れられて、この国にやってきた者ではない。
だが、いまだけは。
アディマは、太陽でなくてもいいと思った。
ケイコをここに連れてきたものが、たとえそれが月であったとしても、感謝したかったのだ。
その身体を何度も抱きしめ、何度も口づけ、お互いの名前を呼び合い、また口づける。
吐息が混じり合い、乱れ始め、彼女の膝が震え、立っていられなくなるまで。
崩れそうになるケイコを抱きとめる。
まだ、口づけも抱擁も、これっぽっちも足りていなかったのだ。
アディマは、乾いた砂地のように彼女を求めていた。
触れれば触れるほど、自分がケイコに触れたかったのだと思い知らされる。
若い自分の身体が、自分のものではないかのように、彼を駆り立ててゆく。
「ケイコ……ケイコ……」
崩れそうになる身体を抱きとめたまま、もう一度彼女に口づける。
それでもやはり──全然足りないままだった。




