可能性
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昼の式典を済ませ、アディマは控えの間へと戻ってきた。
さすがに、徹夜明けの身体に、中暑季地帯の太陽は効くものがある。
杯を受け取り、水で喉を潤す。
そこへ。
リサーが近づいて来た。
彼も式典へは参加していたが、アディマより先に戻っていたのだ。
「軍令府の者が、内偵をしているようです」
耳元に囁かれるそれ。
アディマが、父を通して動かしたことだ。
身内であろうと容赦はしないという意味を込め、軍令府に内々に通達を出したのである。
「それで……ですね」
言いにくそうに、しかし、忌々しそうに、リサーがあらぬ空間を見た。
「内偵の者が言うには、一番怪しい者は……」
しばしの間の後。
「……ケーコだというのです」
アディマは──重い頭を抱えた。
馬鹿馬鹿しすぎて、めまいがしたのだ。
「犯人は、イデアメリトスだと言っただろう」
ケイコが魔法を使えるという事実を知るのは、父、叔母、自分の3人のみ。
しかも、彼女の魔法は人を害するものではない。
「はい。ですが、手引きをしている可能性があると……ケーコを正式に取り調べたいと言ってきています」
リサーの声も、だんだん馬鹿馬鹿しい響きを帯びてきた。
あのケイコに、一体何が出来るというのか。
それについては、リサーもアディマと同意見のようだ。
だが。
ふと、意識にケイコが引っかかった。
彼女は、ここでは叔母の側付きのような役割をしている。
犯人が、イデアメリトスの人間で、叔母の命を狙おうとしているのならば。
嫌な、予感がした。
「叔母上様は、もう部屋に戻られたか?」
彼女もまた、アディマより先に式典から出て行ったのだ。
「おそらく……いつもより、警備はついているようですので心配はいらないかと」
リサーの言葉に、彼は立ち上がっていた。
それは、決してアディマを安心させはしない。
たとえ移動で警備をつけたとしても、部屋の中まではつけないのだ。
「ダイエルファン! 西翼の叔母上の部屋へ! 何があろうとも必ず中に入り、そこで沙汰を待て!」




