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事情聴取

 ノッカーが鳴った。


 景子は、びくっとどきっを両方味わうこととなる。


 もしかして、と。


 既に、ロジューは式典の準備を整えて出て行ってしまった。


 景子は同席できるはずもないので、しょうがなく自室にこもっているしかできないのだ。


 勝手に宮殿をうろつくワケにもいかないし、昨日の今日なのでおとなしくしておこうと、ちゃんと自重したのである。


 アディマ?


 9分9厘、ありえないことだ。


 だが、のこり1厘に賭けてみたくなる。


 何しろアディマは──魔法が使えるのだから。


「失礼する」


 しかし。


 その男の声は、神経質な響きを持っていた。


 誰でもなかった。


 知らない人だ。


「はい……」


 ソファから立ち上がりながら、景子は怪訝を隠せないまま立ち上がった。


 そして、緊張もしていたのだ。


 ロジューが、あんな目にあったばかりなのだから。


「軍令府の者だ。ソレイクル16殿下の件について、話を聞かせてもらおう」


 う、うわぁ。


 景子は、思い切り身体が逃げる自分を止められない。


 神経質な声、という印象は、間違いなかった。


 日本のおまわりさんだって、いきなりこんな鋭い声を景子に向けたりしないだろう。


 は、は、犯人だと思われてる?


 と、景子が被害妄想に駆られずにいられないほどの怖さだ。


 日に焼けているだけ、農林府の上司よりマシには見えたが、その痩せた身体と鋭い眼光に、彼女は委縮していく。


 ソレイクル16殿下──景子の記憶が正しいのならば、ロジューのこと。


 彼女の事件に、軍令府が関わり始めたのか。


 アディマは、本気でイデアメリトスの身内を捕まえる気なのだ。


「ど、どうぞ……」


 それならば、多少怖くても、景子はこの男に協力せざるを得ない。


 祭の成功と、ロジューの身の安全のために。


 だが。


 じーっと睨まれ続けるだけで、景子の寿命は一秒ごとに縮んでいくように感じたのだった。



 ※



「この西翼に、来ている者の名に目を通したが……」


 冷ややかで厳しい声が、流れ始める。


 景子はソファに向かい合って座ったまま、緊張でカチコチになっていた。


「ソレイクル16殿下の連れて来た貴方だけが、素性がまったくはっきりしていない」


 あれ……。


 景子は、言葉に嫌な汗が流れ始めた。


 協力しようとして部屋に入れたはいいが、この質問の方向性は危険なのではないかと気づいたのだ。


「名も、いかにも異国の者としか思えない……一体、貴方はどこの国から来た何者なのだ」


『貴方』という言葉が、既に『お前』にしか聞こえなかった。


 それほど、彼の声には疑いをはらんでいたのだ。


 そりゃあ、私のところに来るわな。


 名前も素性も怪しい。


 そして、被害者であるロジューの側にいるのだ。


 景子が直接犯人じゃないにせよ、手引きをしたと思われてもおかしくない状況だった。


 その上。


 この男に、『日本です』と答えたら、更に突っ込んで根掘り葉掘り聞かれるのは目に見えている。


 どう、しよう。


 状況は分かったものの、どこからどう答えていいか分からない。


 その上、景子の事情を知る者も、味方も同じ空間にはいないのだ。


「ええと……私は、農林府の仕事をしています……」


 とりあえず、思いついた言葉を挙げてみる。


 この国の役所で働いている──それが、どれほどの威力を持つかは分からないが。


「農林府で?」


 疑いを、まったく隠さない瞳だ。


「はい、リサー……ええと、ブエルタリアメリー卿の紹介で……」


 長い名前に、舌が絡まりそうになりながらも、何とかそれを告げた。


「ふむ……それで、国は?」


 ああ。


 生まれの国について、忘れてくれる気はないようだ。


「ええと……ブエルタリアメリー卿のご子息に、聞いていただけますか?」


 景子は。


 ついつい、その問題をリサーに丸投げしたのだった。


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