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馬に引かれて宮殿参り

「それが……手土産か?」


 景子が荷馬車に積み込んだ皮袋を、ロジューは蹴っ飛ばした。


 ガシャンと耳障りな音を立てる。


「ああっ、危ないです!」


 景子は、慌ててその暴挙を止めた。


「硝子?」


 ロジューの視線が、景子を見下ろす。


「割れた硝子です。工事のところで、事故で割れた分を、無理を言って職人さんにもらったんです」


 硝子は、再生が効く。


 だから、職人は割れた硝子を普通は持ち帰り、再び溶かして硝子にするはずだった。


 それを、景子はお願いして集めていたのだ。


「割れた硝子も、お前にとってはお宝というワケか……出せ!」


 いつもより、荷馬車には多めの荷物を積み、人の座れる範囲が狭くなっている。


 祭に出るための衣装や、アディマへの贈り物などが積み込まれているようだ。


 叔母としては、出るからには恥ずかしい真似は出来ないのだろう。


 景子も、一時的に都へ返してもらえることになった。


 温室の工事が、中断してしまったおかげだ。


 一度、ちゃんと居候をさせてもらっている屋敷や、農林府に顔を出して、状況を説明しておきたかったので助かっていた。


 そんな景子を乗せて進む、荷馬車の後方から見える景色は。


 人で溢れていた。


 こんなに大勢が、都を目指すところなど、想像できないほどに。


 それほど、民は祭を楽しみにしているのだろう。


「私の祭が、30年前だったからな……みな、待ちわびていたのだろう」


 荷馬車の後方に見える人々の明るい顔に、ロジューは目を細めた。


 呼び出しは面倒くさがっていたが、人々の嬉しい顔を見るのは心地よいものなのか。


 だが。


 あれ?


 景子は、一つひっかかった。


 20歳になって、都に入って初めて旅が成功して祭りになるということは。


 ロジューの年齢は。


 20+30=??


「その目を私に向けるのをやめないと、そこから放り出すぞ」


 声に、わずかな迫力がこもったことに気づき、景子はアワワと荷物の影に隠れようとしたのだった。



 ※



「あ、私はこの辺でいいです」


 荷馬車は、夜の内に都へと入った。


 祭が始まるということで、夜通し門は開かれたまま。


 普段夜をいやがる町でさえも、煌煌と火をともして騒がしかった。


 この明るさなら、リサーの叔父の屋敷まで歩きで帰れそうだと思えるほど。


「あん? 何を言っている。お前は私の身の回りの世話をするために来たのだろう?」


 不機嫌な声が、しかし、とんでもないことを言い出す。


「え? え? そ、そんなの聞いてないですよ」


 景子は、屋敷と農林府と──そんな理屈が、通る相手ではなかった。


「都へ連れて行くとは言ったが……誰が帰っていいと言った」


 ああああ。


 ロジュー節、炸裂だ。


『しょうがない、お前も荷馬車に積んでいくか』


 これが、彼女の言葉だった。


 景子は、てっきり都で放し飼いにしてくれると思っていたのだが、ロジューは、そのまま自分の側付きにしておく気だったのである。


 が、硝子まで持ってきたのにぃ。


 これでは、意味がなかった。


 この硝子を細かく砕いて、砂地の畑に混ぜ、試験をするつもりだったのだ。


 保水力が上がると、昔聞いたことがあったので。


 それに、これまで試験して放置していた畑もある。


 結果も見て来たかったのにー。


 景子は。


 どこまで行っても、植物馬鹿だった。


 そんな、彼女の気持ちなど興味もないように、ロジューはくくくく、と笑う。


「どうして、そこで悲しむのだ。滅多に入れない、イデアメリトスの宮殿に入れるんだぞ? もっと、盛大に喜べ」


 そんなものを、本人はちっともありがたがっていない癖に、景子には押しつけるのか。


 彼女だって、そんな建物よりも畑の方が気になるのだ。


 ん? 宮殿?


 そこでふと、景子の意識が止まった。


 宮殿と呼ばれるものの外側くらいは、都に住んでいた景子は見たことくらいはある。


 これまでは、大きいなーくらいしか思っていなかったそこに。


 いまは。


 アディマが、いるのだ。


 あう。


 相変わらず、畑の方に後ろ髪を引きずられながらも、景子はほんのちょっとだけ宮殿へと心が傾きかけてしまった。

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