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お出かけ

 ロジューは、気に入った面白いことには、すぐさま手をつけなければ気がすまないようだ。


 翌日には、大工と硝子職人の両方を呼びつけて、温室作戦を開始したのである。


 ただ。


 いきなり、あのジャングルを囲うような大掛かりな建物の依頼をしたものだから、大工も硝子職人も戸惑っていた。


 景子も、さすがにそれは止めた。


「何故だ?」


 お前が出した意見だろうと、ロジューは立腹の様子だ。


「小さいものを試しに作って、効果や改良すべきところを確認してから大きいものを作った方がいいと思います」


 そんな風に熱弁をふるい、ようやく彼女は折れてくれたのである。


 設計の打ち合わせに、景子も参加した。


 学校のように、板と粉で絵を描いて説明したり。


 紙とインクを使っていいと言われはしたが、勿体なくて使えるものではない。


 硝子職人は、同じ大きさの硝子を作る作業に入って、逆に屋敷にはこなくなった。


 一度、見本が届けられただけだ。


 そして。


 ついに、温室は作られ始めた。


 景子はそれを、どきどきしながら見守った。


 ある意味、これは農林府の仕事と関係のあることだと、自分的に納得させてここにいる。


 でなければ、さすがに何日も職場を放り出して、ここに居座るなど出来なかった。


 温室という、新しい植物への環境を作ることは、可能性が広がるきっかけになるかもしれない。


 この施設を、景子が農林府で提案したとしても、採用されるまで相当な時間がかかるだろう。


 だが、ここはロジューの個人的な庭で、そして個人的な資金で作られるものだ。


 彼女が了解すれば、それだけで実際に建ってしまうのである。


 人の財力の尻馬に乗っている感は否めなかったが、『全力で協力するから許して下さい』と、心の中でロジューに手を合わせていた。


 そんな建築現場から、荷馬車の準備が行われているのが見える。


 ロジューが、出かけるのだろうかと見ていると。


 現れた彼女が、景子の方に歩いてくるではないか。


「出かけるぞ」


 わしっと。


 おもむろに、彼女の手を掴んで引きずりはじめる。


 わ、わ、わ、わたしもーー??



 ※



「愚甥から、呼び出しが来てな」


 叔母を呼び出すとは、いい身分だ。


 荷馬車の中で、ロジューは想像上の甥を指で爪弾くような仕草をしてみせた。


 アディマが!?


 景子の心臓は、ぴょこんと一度跳ねる。


 この荷馬車に景子も積み込まれたということは、彼に会えるということだ。


 嬉しいなあ。


 ついつい、彼女は顔を緩めてしまった。


 そんな景子のしまりのない顔を。


 じーーー。


 ロジューの、強いまなざしが見ている。


 はっと我に返り、景子は口元を引き締めた。


「イデアメリトスに会うと聞いて、へらへら笑ってるのは、お前くらいだな。大体、私もイデアメリトスだぞ」


 景子が、全然かしこまったり緊張したりしないことを、どうもロジューは怪訝に覚えているようだ。


 いや、緊張しないわけじゃないけど。


 慣れというものは恐ろしいもので。


 自分に対して、怖いことや嫌なことをしてこない相手だと分かると、安心するだけだ。


 それに。


 前に、アディマが言っていたことを、景子はしっかりと噛みしめた。


 彼女にとって、本当にイデアメリトスというものは、拘束力を持っていないのだ。


 魂に、それが刻まれていない、と言えばいいか。


 だから、この国で偉い人だとは分かるのだが、偉さの現実味がわかなかった。


「まあいい……ところで、お前も魔法を使えると聞いたが」


 突然の話の転換に、景子はすぐについていけなかった。


 アディマは、そんなことまで彼女に話したというのだろうか。


「魔法……なのかなぁ……」


 景子は、ロジューを見た。


 美しい輝きを放つ、イデアメリトスの光が見える。


 髪が年齢を止めるせいか、その若々しい光には翳りがなかった。


「もし、お前が生まれながらにしてそれを持っているというのならば……きちんと磨くのだ。磨かねば、魔法などただの芸と変わらぬのだからな」


 あいたたたたた。


 何故か、ロジューの言葉は──痛かった。

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