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ロジュー

「はぁ? 温かい部屋?」


 夕食の時。


 馬と言われたものの、景子はロジューの食事に同席させられていた。


 小さな生き物が、彼女の足もとで食事をしているのが見える。


 いまは、あれと同列の扱いなのだろうか。


「はい、硝子を張った家の中は、とても温かいです」


 この世界にない『温室』という言葉を伝えるために、景子はそう表現したのだ。


「家の中では、太陽が足りないではないか」


 話にならないと言わんばかりに、ロジューは食器を一度爪先で鳴らす。


「ですから、壁も天井も、全部硝子で作ります」


 そう言った時の、彼女の顔ときたら。


 大きな目を、更に三倍くらい見開いたのだ。


 景子が、びくっとしてしまうほどの迫力のある瞳だった。


 だが、その直後。


「硝子で天井を……あっはっはっは、それはいい。そうか、硝子は窓や瓶だけに使うものではないか」


 ロジューは、自分の身体を抱えるように大笑いを始めるではないか。


「馬鹿馬鹿しいことを、真面目に考えるのだな、ケーコは。ああ、本当に馬鹿馬鹿しい」


 苦しそうに顎を上げ、ひとしきり笑い終えた後、彼女は目をぎらっと光らせて、景子の顔を見る。


「しかし、硝子だけで作ると、その重みで割れてしまいそうだがな」


「枠は木で作ります。格子状に木を組んで、間に硝子をはめていくので、1つあたりの硝子は、そう大きくなくて済みます」


 景子の説明に、ロジューはふむと呟く。


 そして。


 その長い褐色の指先を、水の入った杯の中に、いきなり突っ込んだのだ。


 何をするのかと思いきや。


 彼女は水で濡れた指で、テーブルクロスに何かを描き始める。


 何度か、杯に指をひたしながら。


「こんな、かんじか?」


 うなるロジューの元へと、景子は席を立って近づいていった。


 窓のたくさんある家、のようなものが描かれている。


「ええと……」


 そして、景子もまたテーブルクロスと水を使った、お絵かきに参戦することとなったのだった。



 ※



 そういえば。


 景子は、きょろきょろした。


 温室の件で、何度かロジューの部屋に呼び出されているのだが、『それ』らしい気配はない。


「何だ?」


 彼女の態度に、この屋敷の主はいつも通り、上から見下ろす声を出す。


 ソファに座っているはずなのに、どうしてもそう思えてしまうのが不思議だ。


「あ、いえ……」


 個人的な興味と質問だったので、それを言うのははばかられた。


 どこに地雷があるか分からないのだ、この女性は。


「気持ち悪いな。さっさと言え」


 だが。


 がぶりと、食らいついたら離さない。


 景子は、既に自分の首にロジューが食らいついているのが分かって観念した。


「いえ……旦那さんはいらっしゃらないのかなと……素朴な疑問で」


 アディマの叔母である。


 たとえ、本当に実年齢が若いにしても、イデアメリトスの旅を成功させたという彼女に、何の縁談も来ないのはおかしく思ったのだ。


「結婚などしてない」


 だが、ズバァっと一刀両断された。


「ええー!?」


 意外すぎて、景子はその驚きをつい音にしてしまう。


「イデアメリトスの男と結婚するなんて、うんざりでな」


 テーブルに置かれていた、ジャングルで実っていた南国の果物をひっつかむと、忌々しさを込めたようにかぶりつく。


 いや、うんざりという気分で許されることなのだろうか。


「だが、私に娘がいなくてよかったと、お前は思わないのか?」


 は?


 突然振られた話の展開に、景子の脳はついていけなかった。


「もし、私に娘がいたら……間違いなく、あの愚甥の嫁候補筆頭になっていたからな」


 くくくくく、と。


 底意地の悪い瞳が、彼女に向く。


 ええと。


 ロジューの子ならば、アディマの従姉妹になる。


 彼女の言い方からすると、イデアメリトスは、イデアメリトスと結婚するしきたりなのだろう。


 そこに、景子が出てくる理由と言えば。


 アディマの言う、景子伴侶説を丸呑みにしているということ。


 わ、笑い飛ばしたんじゃないんですかぁぁぁ!

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