日本の夏
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あの、草原に差しかかった。
その一面の草の波を見た時、景子は夜のことを思い出したのだ。
三人の日本人が、この世界に降り立った場所。
いま、ここにいる日本人は一人だ。
けれども、それは悲しい一人ではなかった。
梅も菊も生きていて、それぞれがすべきことに打ち込んでいる。
景子も、自分をより活かすために都に向かっているのだ。
草の波をかきわけて進みながら、彼女はさかんにきょろきょろとした。
探しているものがあったのだ。
昼間は明るいので、植物の光の判別が若干つきにくい。
それでも、目をこらした。
「あっ……!」
『それ』が、目に入った時。
景子は大きな声を上げてしまった。
あっ……た。
その事実で頭がいっぱいになり、おもむろにそっちに向かって歩き出す。
草原から、頭一つぴょこんと飛び出している緑の切っ先。
青葉をつけた、桜の苗だ。
土に根を下ろし、それは一生懸命育とうとしていた。
不思議なことに、木の周囲の草は円状に枯れている。
その円に、景子が入った瞬間。
ああ。
そこは、むせかえるほど暑かった。
草は、この暑さに耐えられなかったのだろう。
ああ、そうなの。
景子は、まだ低い木に触れた。
「日本は今……夏なのね」
この桜の作る円は、どこか日本とつながっているのだろうか。
不快なばかりの、日本の夏に包まれながら、景子は引き込まれるように空を見上げた。
この桜の苗を、大樹に錯覚したのだ。
枝を伸ばし、美しい青葉をしげらせる大樹に。
そのまま、幻に吸い込まれそうになった時。
「ケイコ!」
彼女は、引き戻されていた。
青ざめた顔をしたアディマに。




