柳
○
「それで……伝言とは?」
梅は、行商人の男の目の中に、菊を探そうとした。
彼が見てきた、自分の相方の姿を。
「『ヤナギ』は、ちゃんと育っている、と」
男の言葉は──梅を笑わせた。
こらえるのが、大変なほど。
「ああ……そう……柳……柳ね……菊ったら」
アルテンのことだ。
あの上背がある細長い身体を、菊は柳と表現したのである。
あまりにぴったりすぎて、頭の中で柳と彼の容姿を重ねて考えたら、笑いが止まらなくなってしまったのだ。
笑いすぎて。
「……ケホッ……ケホケホッ」
肺が限界になって、むせてしまうほど。
しばらく、思い出さないように気をつけなければならないほどの、破壊力だった。
「ウメ……大丈夫? 部屋で休んではどう?」
イエンタラスー夫人が、彼女の身体を心配してくれる。
「だ、大丈夫です、夫人。楽しすぎて……」
ゆっくりと息を整えて、梅は行商人へと視線を戻した。
「ごめんなさい……この本を部屋まで運んでくださらない?」
一度受け取った本は、彼女の腕の中で崩れかけていて。
重みのせいもあるし、むせたせいもある。
男は、一度イエンタラスー夫人を見た。
彼女は、まあいいでしょうという風に、まぶたで頷く。
大きな手が、梅の身体から本を受け取ってくれ、ようやく彼女は身軽になって深呼吸することが出来た。
「ありがとう」
部屋に案内するため、先に立って歩き出す。
イエンタラスー夫人と、多少距離が出来た時。
「あなたの姉妹の持っている剣について、少し聞いてもいいですか?」
男が、問いかけてきた。
夫人のいる前では、おそらくしなかっただろう質問。
「定兼……我が家の家宝の『刀』です」
振り返らず、梅は答えた。
後ろからついてきていた足が、一度止まる。
「サダカネ……カタナ……」
覚えるように、彼はそれを反芻したのだった。




