求め
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「一緒に、都に行くことにしました……」
景子は、少し照れ笑いをしながら、そう伝えてきた。
梅は、それに微笑んだ。
「そう……それは、よかったわ」
景子の心中は、複雑なものがたくさん渦巻いているだろう。
けれども、一緒に行くと、彼女に言わしめる一言を、イデアメリトスの彼が告げたということである。
それは、おそらく愛の言葉ではないだろう。
裏付けのない愛の言葉ごときでは、彼女がフラフラしないのは、これまでのことで把握済みだ。
それは、彼の努力で解決すべきことだった。
「そして、いつか……梅さんを都へ呼べるようにしたいと思ってます」
だが。
景子は、彼女を驚かしもした。
突然、そこに梅を織り込んできたからだ。
「アディマには、知恵がたくさん必要になると思うんです」
笑うと更に幼くなる顔を緩め、景子の中にある展望を明らかにする。
「私とは違う方向の、梅さんの知識や教養も、アディマの力になると信じてます」
その展望の中心には──彼がいた。
景子は、イデアメリトスの彼に、尽くそうと思っているのだ。
たとえ。
たとえ、思いが成就されることがなくとも。
「そのためには……私は、一生懸命都で頑張ります。私の言葉が、ちゃんと都の人に通るようになれば、梅さんを呼ぶ下地になると思うんです」
自分のことだけで大変なはずなのに、景子は梅の手をぎゅっと握ってくれる。
ああ。
これが、人に求められるという感覚なのか。
いままで、梅は自分のために勉強や習い事をしていた。
この屋敷で、本を読み漁っているのもまた、自分の知識欲のためのものだ。
だが。
知識は、本当は貯めるものではなくて──使うもの。
その使うアテを、彼女は梅に提示してくれているのである。
「そう……都に呼ばれる日を、私も楽しみにしているわ」
景子の手を。
握り返した。




