出会い
(Illustration by ROM)
☆
景子は、いつ着るのをやめようかと思いながらもやめられない、ピンクのセーターにエプロンといういでたちで店番をしていた。
ピンクが許されるのって、何歳までかなあ。
そんなとぼけたことを考える、31歳。
微妙なお年頃だった。
11年連れ添っている、愛用の大きめのメガネ。
これがないと、昔のお笑いの大御所のように『メガネ、メガネ』と無様な状態になってしまうほどのド近眼。
天然パーマの髪は、何度ストレートパーマをかけても、彼女のいうことを聞かない悪い生き物だ。
しかし、このくるんとした髪と生まれつきの童顔のおかげで、彼女は随分若く見られる。
そんな彼女は、現在花屋の店番中だ。
ここは、祖母の店だった。
しかし、祖母はもう花屋を続けるのは体力的に難しくなっており、実質彼女が継いだような状態になっている。
とは言っても、最初から花屋をしていたわけではない。
短大を卒業して、25まではOLをやっていた。
逆に言えば──5年が限界だった。
そして彼女は、祖母の花屋に転がり込んだのである。
それからは、この少し田舎な町でのんびりと花を売っている。
仕事をやめて、本当によかったと思っていた。
景子には、こちらの仕事が合っていたのだ。
「いらっしゃいませ」
扉を開けるベルの音に、景子は振り返る。
まだ春は少し遠い。
花屋に来る人は、とても明るい顔をした人か、物憂げな顔をした人か。
あら。
入ってきたのは、二人。
一瞬、景子は自分がタイムスリップをしたかと思った。
一人ははんなりと落ち着いた着物姿で、もう一人はしなやかな袴姿だったからだ。
外は小雨だったため、袴姿の方が大きな蛇の目傘を畳んでいる。
「こんにちは、こちらに桜の苗があると伺ったのですが……」
百合も牡丹も、そのしとやかさに恥じらって逃げてしまいそうだ。
みとれていた景子は、はっと我に返る。
我に返ったら──別のものが見えた。
※
わあ。
景子は、その眩しさに目を細めた。
着物の女性も袴の人も、とてもとても鮮やかな光をまとっている。
若々しい証しだ。
一瞬では分からなかったが、二人とも多分高校生くらい。
そして。
二人は、とてもよく似た光の色をしていた。
魂の色がそっくりだったのだ。
姉妹なんだ。
景子は、袴の人も女性であると気づいた。
すらりと背が高く、髪も短いし凛とした顔立ちをしているが、まとう光の色が教えてくれるのだ。
こんな理屈を人が聞いたら、頭がおかしいと思われるかもしれない。
しかし、景子には『それ』が見えた。
子供の頃から、ずっと。
ただ、それを口にしてはいけないと、成長するごとに自分の身で知っていったのだ。
そうしなければ、この世界では生きていけないと。
子供の頃、よく花屋のおばあちゃんのところに泣きついていた。
『みんなが私を嘘つきっていうの!』
『みんな私を気持ち悪いって!』
『どうして、私にはこんな変なものが見えるの!?』
その度に、おばあちゃんは優しく、景子の天然パーマの頭をなでてくれたのだ。
『大丈夫だよ景子。お前に見えるものは、お天道様にも見えるものだ。お前は、お天道様と同じものが見える目をもらったんだよ』
おばあちゃんは、景子の見る力に『お天道様の目』と名前をつけてくれた。
大人になるにつれ、彼女もだいぶうまくその目と付き合えるようになってきたのだ。
が。
社会人になって、ついにドロップアウトした。
田舎の短大から都市の企業に出た彼女の目に、たくさんのつらいものが映ってしまったからだ。
それでノイローゼになりかけて、景子はこの花屋に逃げ込んだのである。
それが、彼女が花屋を継いだ理由。
そんな彼女の目に、姉妹が映る。
しかも、ただの姉妹ではない。
限りなく魂の色の近い二人。
前に、彼女はほんの数回、同じ体験をしたことがあった。
ああ、この子たち──双子なんだわ。