幼き初恋 暗闇の傷9
紫連はすぐ近くにあった出店の前で止まっていた。よく見ると、紫連の手には簪が握られている。それを見た青笙と白夜はぴんと来た。
「ありゃ、お嬢への贈り物だな」
「・・・・やっぱり、お前もそう思うか?」
「他にいないだろ。同じ皇慈院のやつらでも自分の傍へ近づけさせない奴だぜ。例外は、俺、白夜兄貴、院長先生、劉嶺様、木蓮様、信明様、水蓮お嬢だけ。この中で女は木蓮様とお嬢のみ。あの簪じゃ木蓮様にはかわいらしすぎる」
「だが、意外だな」
白夜は顎に指を持っていき、しばし考えた。
「いっつも、水蓮につれない紫連が水蓮に贈り物ねぇ」
それを聞いた青笙は苦笑いをしながら答えた。
「紫連は聡い。けど不器用だからな」
「というと?」
「紫連もお嬢のことを憎からず思っているということさ」
「・・・・なるほど、問題は身分か」
「まぁ、それだけじゃないんだけど・・・・・」
水蓮が皇慈院に来る回数は、さほど多くはない。しかし、普通では有り得ない。
なぜなら、水蓮は王族の姫なのだから。本来は家の中で大切に大切に育てられ、自分たちのような平
民のしかも孤児なんかと親しくできるような相手ではないのだ。
『たとえ、相思相愛でも結ばれることはないか』
紫連と水蓮、二人の未来を思うと白夜は少し切なくなった。
「兄貴。紫連を連れて早く行かなくてもいいのか」
「今、紫連の邪魔をしたら水蓮が可哀想だ。水蓮に免じて少し待ってやる」
「やったー!」
白夜の言葉を聞いた青笙は目をキラキラさせてその場を離れようとした。
「おい。待て」
走り出すところをむんずと掴まえる。
「どこへ行くつもりだ」
「俺も何か買いに・・・・」
「お前は駄目だ」
「えー!ずりー。どうして俺は駄目なんだよ」
「お前は目を離すと何をしでかすか、わからん。いいから、ここにいろ」
「えー」
青笙が白夜にぶーぶー文句を言っていると紫連が帰ってきた。
「さぁ。皆が待っている。急ぐぞ」
そして三人は皆が待つ観覧席まで全力疾走していった。