幼き初恋 暗闇の傷8
―奉納舞当日―
新年祭ということで城下は朝からお祭り騒ぎである。しかも今年は建国百周年ということで普段見られない特別な奉納舞を見られる。少しでもいい場所を確保しようと宮城前の広場は多くの人でごった返していた。
「すげぇー人だかりだなー。紫連。それにいろんな出店もあるし」
「ああ」
「こんな所で踊るのかー。お嬢大丈夫かな?」
「大丈夫だろ?」
「とかなんとか言ってー。本当は心配なくせにー」
「ちゃんと前向いて歩け。青笙。人の迷惑になる」
「はいはい」
にやにやと締まりのない顔をした青笙と常に無表情無愛想の鉄面皮、紫連は器用に人混みの中を誰にもぶつからず、するすると歩いていく。皇国王都で新年祭に参加するのは二人とも初めてで、特に青笙はいろいろな物に興味津々。あっちにフラフラこっちにフラフラ。一向に前へ進まない。
「おっ! あっちで大道芸をやってるぜ。見に行こうぜ」
そう言うと青笙は紫連を置いていく勢いで駆けていった。否。駆けていこうとした。
「くぅおぅらぁー!お前らー!何やってんだ」
激しい怒号とともに鋭い拳骨が二人の脳天に振り下ろされた。
『ゴン! ゴン!』というような鈍い音が響きわたる。
顔を上げると仁王像のような形相をした皇慈院最年長にして皆の兄貴、白夜が目の前に立っていた。
「兄貴」
「全くお前らはー!はぐれないように気をつけろといった傍からはぐれやがってー!しかも、なんだ、人が心配して探しに来てみれば、随分楽しそうじゃねぇかー」
「いや~兄貴。それは、誤解だってー。みんなとはぐれちまって、探し回ってたんだよ。なぁ、紫連」
青笙は冷や汗をかきながら、紫連に助けを求めた。
「・・・・・・」
しかし紫連は否定もしなければ肯定もしない。ただ、ひたすら頭にできた瘤を無言でさすっているだけだった。
「帰ったら、たっぷりお仕置きさせてもらうからな。楽しみにしてろ」
「そんな殺生な~」
「うるさい!行くぞ」
問答無用と白夜は青笙の首根っこを掴んで歩きはじめた。しかし、紫連がついてくる気配がない。後ろを振り返ると、紫連は、横を向いて立ち止まっていた。白夜と青笙はどうしたのかと首をかしげ紫連がいる所まで戻ってみる。
「おい。紫連。行くぞって言っただろ」
まず、白夜が話しかける。
「しれーん。聞こえてるかー」
次に耳元で青笙が言う。しかし紫連はというと反応なし。しかも、二人を置いてあらぬ方向へ歩いていった。
「おおおい。しれーん」
紫連を呼び止めるが反応なし。
「どうしたんだ一体?」
「わかんねぇ」
突然の紫連の奇行に戸惑う二人。だが、このまま放っておくわけにもいかないので、とりあえず紫連の後を追った。