幼き初恋 暗闇の傷7
「ところで父上、私になにか用事があって、ここに来られたのではないのですか?」
三人とも落ち着いたところで信明が話を切り出した。
「ああ。そうそう、忘れていた」
「それなら、私は自分の部屋に戻ります」
そう言って立ち上がろうとした水蓮を劉嶺は止めた。
「いや。水蓮にも関係があることだから聞いていきなさい」
「・・・はい」
返事をしつつも水蓮は心の中で首を傾げた。
『なんだろう?』
「今度の奉納舞のことなんだが。今年で皇国建国百周年になる。で今まで神に捧げる舞は王族と一部の貴族のみに観覧を許されていた。しかし、百年間、我々を支え続けてくれた民にも、ぜひ奉納舞を見せたいと皇王陛下がおっしゃられてな。急遽一舞のみ見せることとなった。そこで、選ばれたのが、二人舞をする予定だった琥珀様と水蓮、お前だ」
寝耳に水の話に水蓮は、息を呑んだ。
「それで、ここからは信明に頼みたいのだが水蓮が民の前で踊るということで我々に特別に観覧席を多数ご用意してくださることになったのだ。私はそこに皇慈院のみんなを招待した。信明には当日、木蓮を連れて彼らの引率をしてもらいたいのだ」
「わかりました。おまかせください」
信明が了解の返事をすると水蓮は無言ですくっと立ち上がり劉嶺に聞いた。
「お父様。皇慈院にいる人みーんな、私の舞を見に来るの?」
「そうだよ。みーんな来るよ」
それを聞くと水蓮は部屋を飛び出し、駆け出していった。
水蓮の後ろ姿を呆然と見送った劉嶺は信明に言った。
「何かまずいことを言ったかな?」
クスクスッと信明は笑った。
「いえいえ。水蓮の心に火をつけただけですよ」
信明の予想通りその後水蓮は寝る間も惜しみ練習しつづけた。