幼き初恋 暗闇の傷3
そうこうしているうちに孤児院『皇慈院』に到着。水蓮は馬車が止まると同時に馬車から飛び降り疾風の如き速さで院の中へ入っていった。
建物の玄関には一人の青年が立っている。『髪はボサボサ。髭もボウボウ。』の彼は、この皇慈院最年長で名は白夜。当年十八歳で、水蓮の兄信明と同い年。時々、兄の付き人として水蓮の家にも出入りするので、水蓮とも、かなり親しい間柄だ。
「あれ? 水蓮じゃないか。久しぶり。そんなに慌ててどうしたんだ?」
「白夜! 紫連、どこにいるか知ってる?」
「紫連なら、ちょうど井戸から水汲んでるところだけど」
「そう。ありがとうー!」
そういうと、あっという間にいなくなった。白夜が呆気にとられていると、入り口の方から声をかけられた。
「白夜、今、水蓮が勢いよく走っていったんだが、一体どうしたんだ」
そこには同じく呆気にとられた劉嶺が立っていた。
「嶺様。ご無沙汰しております」
「いやいや、こちらこそ。ここのところ忙しくてこちらには全然寄れなくてすまなかったね」
「いえ。我々のことを気にかけてくださるだけで十分です。ところで、ご用件は?」
「院長に話があるのだが、呼んできてくれないか」
「わかりました。では、とりあえず中にお入りください。緑依、赤瑚」
「「はい」」
白夜が呼ぶと中から水蓮と同じくらいの女の子と男の子が出てきた。
「初めて見る顔だね。新しく入った子たちかい?」
「はい。そうです。この方は、この皇慈院を作り援助してくださってる劉嶺様だ。ちゃんとご挨拶しなさい」
まず、女の子の方がペコっとお辞儀をしてあいさつした。
「劉嶺様。はじめまして、緑依です」
「赤瑚です」
「緑依、院長様を呼んでくるから嶺様にお茶をお出しして、その間赤瑚と一緒に嶺様のお相手をしていてくれ」
そう言い残すと白夜は部屋の奥へと消えていった。