幼き初恋 暗闇の傷27
「俺が知ってるのは、これだけだ。後は水蓮にしか、わからない」
予想もしなかった武尊の話に劉嶺は口元を押さえた。
「水蓮が賊を皆殺し。そんな馬鹿な」
「信じられないかもしれないが、真実だ。しかし、『十歳の子供がそんなこと、できるはずがない』と、考えるのが普通だ。だから、他の者には俺が殺したことにしてある。それと一つ気になることがある。死ぬ直前の木蓮の言葉だ」
武尊は木蓮の最後の言葉をそのまま劉嶺に伝えた。
「木蓮は『その力は神がくれたものだ』と言った。木蓮は以前から水蓮に何か特別な力が宿っていることを知っていたんじゃねぇかと思う。そこでだ。 これから、俺は水蓮の力の謎と木蓮の死の真相を調べるつもりだ。そして、重要なのはここからだ。嶺、水蓮をしばらく俺に預けろ」
「突然何を・・・・」
それまで、静かに武尊の話を聞いていた嶺の目が吊り上った。
「あの力に振り回されないよう、水蓮を仕込む。例え、お前が駄目だといっても連れて行く」
「なっ!」
「おそらく、水蓮も黙って頷くだろう」
「ふざけるな! 目の前で母親を殺され、深く傷ついているあの子を手放せというのか!」
劉嶺は声を荒げ、武尊の胸倉を掴んだ。
「ふざけてなんかいない。それに、お前はまず、娘の心配より自分の心配をしろ!」
「何だと?」
「今日は本当だったら、全員城にいたはずなんだろう?なのに、水蓮が熱を出したから宴を欠席して木蓮と二人、屋敷へ戻った。お前たちが護衛兵を何人か連れて行っている分、警備は手薄。ただのもの盗りなら、木蓮の死は偶然で済んだんだ。しかし、屋敷を見た限りでは物色された形跡がまるでない。あきらかに殺人が目的だ」
「何が言いたい」
「つまり、水蓮と木蓮が宴を欠席し、お前と信明が屋敷にいないことを知ってる人間が、やったんだ。暗殺者どもの容赦の無さから見ると、相当、木蓮たちを邪魔に思ってた人間の仕業だろう」
「木蓮は人に恨まれるような人間じゃない」
「なら、そいつの目的がお前なら?」
「何?」
「お前を苦しめるためにやったのなら、そいつは良いとこ突いてるぜ」
「まさか。・・・・・私のせいなのか」
「使用人たちも皆殺しだ。その可能性も捨てきれない。なら、次は信明かお前自身か。また水蓮か。だな」
ショックのあまり劉嶺は握り締めていた武尊の服を離し、床に崩れ落ちた。
「とにかく、水蓮は、連れて行く。いいな」
それだけ言うと武尊は劉嶺の部屋を後にした。