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幼き初恋 暗闇の傷25


この日、武尊が劉嶺邸にやってきたのは偶然だった。自由気ままな放浪生活を満喫していた武尊はなんとなーく歩いていたら、いつの間にか、皇に来ていて、また、なーんとなく皇の町を歩いていたら、劉嶺邸の前まで来ていた。そこで、武尊は折角なので十年ぶりに劉嶺たちに会おうと正門へと向かった。

しかし、門の前にはいつも居るはずの門番が一人もいない。それに風に乗って運ばれる濃い血の臭い。異変を感じた武尊はすぐさま近隣住民に役所へ知らせるよう指示し、自分は小さな明かりのみを頼りに劉嶺邸へと足を踏み入れた。中で待っていたのは物言わぬ死体のみ。女子供まで容赦なく斬り殺すやり方に武尊は奥歯を噛み締める。


ゾクッ


突然、異様な気配を感じ武尊の体が反応した。奥から何やら得体の知れない力を感じる。それと共に凄まじい殺気だ。首筋がチリチリする。


『嶺・木蓮・信明。無事でいろ』


武尊は、急いでその気配の元にいく。最初に目に飛び込んできたのは、床に倒れた木蓮の姿。


「木蓮!」


武尊は駆け寄ると床に明かりを置き、木蓮の体を抱き起こした。


「木蓮! 木蓮! 俺だ。武尊だ。しっかりしろ」


木蓮の頬を軽く叩き、体を揺する。


「武・・そ・・ん?・・・」


「そうだ。木蓮しっかりしろ!」


「武尊。あの子は? 水・・蓮・・は?」


「水蓮?」


「私の子・・ども」


それを聞いた武尊は周りを見渡してみる。それらしき子供の姿は見えない。

すると、また、あの不気味な気配を感じた。武尊は腰に差してあった刀を鞘からはずし、片手で木蓮を支えながら身構える。

薄闇の中、天空にかかっていた雲が晴れ、月がその姿を現していく。その光の影から一人の少女がこちらにやってきた。血に染まったかのような赤髪に蒼天の瞳、頬に蒼き竜の模様。右手には折れた剣。左手には気を失った賊を引きずっている。武尊は驚き、目をむいた。


「もしかして、お前が、水蓮か?」


武尊の問いかけに何の反応も示さない。折れた刀を放り投げるとその少女は、地面に落ちている剣を拾い、無言で賊に突き立てた。


「水・・・蓮」


木蓮が少女を呼ぶ。しかし、少女は息の根を止めたばかりの賊にひたすら剣を突き立て続ける。


「水蓮・・・。武尊、お・・ねが・・い。水蓮、元に・・・。水蓮たすけ・・・」


狂ったとしか思えない水蓮の行動を見ていた木蓮が必死に武尊に希う。木蓮の傷は深い。


『もう、助からない。ならば、その娘が木蓮を見取ってやらねばならないだろうが!』


深手の木蓮に見向きもしない水蓮に腹を立て、武尊は、水蓮に怒鳴った。


「おい! 水蓮! お前、何、とち狂ってやがる。そいつは、もう死んでるんだ。もう、いい加減やめろ!」


武尊はそういうと庭に下りて、水蓮に近づいていく。そして水蓮の握っている手から剣を奪おうと手を伸ばした。すると、水蓮が剣を振り、武尊に切りかかってきた。

容赦の無い斬撃。確実に武尊の命を取りに来ている。見境のない水蓮の攻撃に、とうとう武尊はブチ切れた。

水蓮は飛び上がり、武尊の頭上から剣を振り下ろす。武尊は慌てることなく握っている刀で、それを受け止めると、左手を振り上げ、水蓮の頭をどついた。


「目を覚ませ!」


ゴンッ


武尊の強烈な一撃によって水蓮は思いっきり地面に叩きつけられる。


『やべっやりすぎた』


手加減したつもりだったが、子供の水蓮には手加減になってなかったらしい。そのまま地面に横たわり、ピクリとも動かない。


「おいっ大丈夫か?」


慌てて武尊が地面に手を突き水蓮の肩を揺する。すると、どうだろう。赤い髪は黒く染まり、竜の模様も消えた。しばらくして閉じられた瞼の奥から現れた瞳の色は茶色。さっきの、人間のものとは思えないほどの異様な気配も消えた。


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