表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/27

幼き初恋 暗闇の傷24

『熱い、苦しい、ここはどこ?』


水蓮は、熱のせいで今自分がどこで、何をしているのか、さっぱり分からなくなっていた。


『そうだ。奉納舞を舞った後、熱を出して寝込んだんだっけ。紫連が看病してくれた後、お母様と一緒にうちへ帰ってそれから・・・・・』


「ぎゃーーーー!」


夢うつつの水蓮の耳に突然誰かの悲鳴が飛び込んできた。しばらくすると、部屋の扉が開く音がして、誰かの手が水蓮の体を揺すった。


「水蓮! 水蓮! 早く起きて!」


水蓮が目を開けるとそこには、強張った顔をした母木蓮がいた。


「お母様? どうなさったの?」


熱とさっき飲んだ薬のせいで、水蓮の意識ははっきりせず、ぼーっとしていた。


「いいから、早く立って逃げるのよ!」


木蓮に強引に部屋の外へと連れ出された水蓮が見たものは月明かりの中きらりと光る十数もの抜き身の剣と息絶えている使用人たちの姿だった。

あまりの惨状に水蓮は言葉を失い、足にも力が入らず、その場に座り込んでしまった。


「水蓮! 立ちなさい! 立って逃げるのよ」


木蓮が水蓮の腕を取り必死に立たせようとする。

しかし、水蓮は震えるばかりでピクリとも動かない。


「・・・た・・・たすけて・・・」


微かに声が出るだけ。

水蓮に向かって一つの剣がゆっくりと近づいてくる。水蓮が剣の射程距離に入った。剣がゆっくりと振り上げられる。水蓮は恐怖におののき、目をつぶって、衝撃に備えた。


『斬られる』


「水蓮!」


ザシュッ


母の叫びとともに肉の切られる音がした。しかし、痛みはない。

水蓮は恐る恐る目を開ける。そして、目を開けた水蓮の前にあったのは・・・・。


「・・・おかあ・・さま?」


水蓮を庇い、斬られ、床に倒れている木蓮の姿だった。

母親の姿と大量の血の匂い、そして、多くの惨殺死体の映像が水蓮の脳裏に明滅する。

水蓮は、両手で頭を押さえ、倒れた木蓮を見つめ続けた。


「あ・・あ・・・あ・・・」


『大量の血。死体。剣。お母様。切った。お母様を殺した。怖い。恐い。私も殺される。

恐い。怖い。助けて。たすけて』


水蓮の心が恐怖でいっぱいになったその時、水蓮の中の何かが暴れだした。水蓮の異変に気がつかない暗殺者たちはそのまま水蓮への囲みを小さくしていく。


『おかあさまを殺した。ころした! コロシタ!・・・・次はわたし。・・・・いやっ、嫌。死にたくない。死にたくない! 殺されたくない!』


恐怖が限界に達したその時、水蓮の頭の中で誰かが水蓮に囁いた。


『ならば、目覚めよ。死にたくなければ、目覚めて、殺せ。殺してしまえ。皆殺せ!』


複数いる暗殺者の中の一人が水蓮に襲い掛かる。その瞬間…。


「ぅぅぅうあああぁぁぁぁぁーーーーーー!」


恐怖という感情と頭に響く誰かの声に引きずられ、水蓮の中の太古の血が目覚めはじめた。

水蓮の体から発せられる尋常じゃない殺気を感じ、暗殺者たちの動きが一斉に止まった。

それまでは、黒かった水蓮の髪が一瞬にして赤色に染まり、左頬には蒼き竜がとぐろを巻く。その異様な光景に暗殺者たちは誰一人として動くことはできなかった。

水蓮の周りに何か得体の知れない、見えない力が水紋のように広がっていき、そして徐々に消えていった。辺りがシーンと静まり返る。すると、今まで下を向いていた水蓮がそっと立ち上がり、顔を上げる。そして、ゆっくりと瞼が開き、水蓮の双眸が現れた。暗殺者が、その蒼い輝きを見た瞬間、水蓮が動く。



バキッ


「うがぁっ!」


目にも留まらぬ速さで水蓮は近くにいた暗殺者の腕に蹴りを食らわせ、その手から零れ落ちた剣を拾うと目の前の暗殺者に向かって一閃した。

暗殺者の首が綺麗な弧を描いて地面に落ち、空では月が闇にその身を隠す。

それが、新たな惨劇の始まりの合図だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ