幼き初恋 暗闇の傷23
新年のおめでたい雰囲気が一変、悲しい雰囲気が劉嶺邸を包む。あの後、劉嶺と信明が兵士を連れて、屋敷に戻った時にはもう何もかもが手遅れだった。
屋敷に飛び散る大量の血痕。屋敷にいた使用人たちは女子供関係なく皆殺され、息をする者は誰一人としていなかった。そして、屋敷の奥で劉嶺たちが見たものは月明かりに照らされた二つの影。一つは大柄な男の形をし、もう一つは、変わり果てた最愛の妻の亡骸に寄り添い、床に座りこんでいる愛娘。水蓮だった。
「おい。嶺。大丈夫か?」
後ろから男の声がする。その声は過去に遡っていた劉嶺の意識を現実の世界へと引き戻す。
振り返るとかなりの大柄な男が部屋の入り口に立っていた。
その男は劉嶺の十年来の友人で名を『幡 武尊』という。
劉嶺は心配をかけまいと武尊に微笑む。
「大丈夫だよ。武尊。心配いらない」
いつもと変わらぬ穏やかな笑顔。しかし、それが仮面であることを武尊はよく知っている。
だが、見かけによらず頑固な劉嶺に泣けと言っても聞かないだろう。武尊はガシガシっと頭を掻くと本題に入った。武尊が、事件の後処理で忙しい劉嶺のところへ来たのは、五十過ぎのおっさんを慰めるためではない。武尊が見た事件の一部始終と今もなお、悪夢の中に留まっている水蓮についての話をするためである。
「嶺。お前に言わなければならないことがある」
そういうと、武尊は語り始めた。