幼き初恋 暗闇の傷18
紫連と青笙は城門付近までやってきた。舞台があった広場同様大勢の人たちで賑わい、いろいろな出店が軒を連ね活気に溢れている。
「お嬢が出てくるとしたら、たぶんあの門だろうな」
青笙が指差した先には大きな城門がそびえたっていた。紫連はちらりと青笙を見ると、ぼそっと話しかけた。
「なぜ、お前まで、付いてくる」
「いいじゃん、別に。お嬢を見つけたら二人っきりにしてやるし。ところで、珍しく自分から、お嬢の相手するって言い出して、一体どうした?」
青笙はいきなり核心をついてきた。
「・・・・・・・」
紫連は何も答えない。青笙は空を仰ぎながら言葉を紡ぐ。
「紫連。お嬢は、まだ十歳だ。未来はどうなるか、わかんねぇよ。お嬢が誰を選ぶかもな。だから、今はまだ、心のままに動いたっていいんじゃないの?『お嬢と過ごせる最初で最後の新年祭』って決めることはねぇ」
紫連は何か考えるように立ち止まる。何も言わないのに、いつだって青笙には自分の胸のうちがバレてしまう。そうだ。紫連は恐れたのだ。白夜の言葉を思い出す。
『今日水蓮に惚れちまった野郎はたくさんいるだろうな。あーあ。水蓮がお年頃になったら、大変だな。皇に血の雨が降るかも』
わかっているのだ。いつか、水蓮には身分にあった求婚者が多数現れるであろう。その中に自分が入れないことも自覚している。自分では水蓮を幸せにすることはできないと、理解もしている。だから、今日で封印しようと思った。この思いを。これ以上育つことのないように。
俯いてしまった紫連の頭を励ますようにポンポンと青笙が叩く。
「そら、元気出して、お嬢を迎えにいこーぜ・・・・って、あれ?」
青笙は一歩踏み出した時点で急停止した。顔は横を向いたまま。何事かと思い、紫連は顔をあげる。そして、青笙の視線の先を追った。
木陰の石段に座る少年と小さな少女。一人は背の高い見たことも無い少年。おそらく、紫連たちより一、二歳上だろう。少年は少女の額を手巾で拭ってやっていた。その手が頬へ行き、そして止まる。もう一方の手が少女の肩へと回り少女は少年の方へと引き寄せられる。その瞬間気づいたら紫連は怒鳴っていた。
「お嬢様っ!」