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幼き初恋 暗闇の傷17


奉納舞が終了し、水蓮と琥珀は退場していった。しかし、舞台は興奮した観客で溢れ、かなりの熱気が辺りを包む。


「すげぇ~な。これだけの人間をたらしこめるなんて、さすがお嬢。希代の悪女の素質があるんじゃね~の?」


青笙が軽口をたたく。


「あら、青笙、生みの親を目の前にして喧嘩売ってるのかしら」


黙って聞いていた木蓮が青笙に挑む目つきで問う。木蓮が近くにいるのを思いっきり忘れてた青笙は『うへぇ』と言いながら頭を引っ込めた。その様子を満足そうに木蓮が見る。

木蓮は夫である劉嶺に代わって頻繁に皇慈院へ出入りしているため、青笙達にとって母親同然の存在だ。そんな木蓮に皇慈院の面々は誰も逆らえない。いつもは威勢のいい青笙の情けない姿に皆笑いを堪えている。


「それじゃあ、私は水蓮たちのところへ行って労いの言葉をかけてきますね。母上、宴の時刻になりましたら、宮城前にお越しください。迎えにいきますから」


そう言うと妹中心主義の信明は白夜に何事か耳打ちし、席を立った。


「木蓮様~。宴って?」


木蓮の袖を一人の男の子が引っ張る。その男の子の名は赤瑚。最近皇慈院の一員となった子供である。年は水蓮より一つ年下だが、小柄で年齢より幼く見える。


「夕刻から、城で宴が開かれるの。中に入れるのは王族と貴族のみで、今回舞った舞姫二人を労うものなのよ」


今度は女の子が木蓮の袖を引く。


「木蓮様も出席なさるの?」


この少女の名は緑依。緑依もまた、最近皇慈院に入ったばかりで、母親が恋しいのか木蓮から離れようとしない。緑依は水蓮より二つ年上。自分の子供と年の近いこの二人を木蓮も可愛がっていた。


「ええ。もちろん」


二人はとても残念そうな顔をした。さすがに、宴の席までくっ付いて行くわけにはいかないからだ。木蓮はそんな二人の肩を叩き提案した。


「まだ、宴まで時間があるわ。皆で出店をひやかしにいきましょう」


その言葉に、皇慈院院長が慌てる。


「奥様。いつも良くしてくださっている奥様にそのようなご迷惑をおかけするわけには・・・・・」


院長は、戦災で焼けてしまった寺の元住職で高齢だが、足腰はしっかりしている。散策する体力もある。しかし、『皇』の王族の奥方にそんなことをさせるわけにはいかないと大慌て。だが、木蓮はそんなこと気にもとめない。


「あら、皇慈院で日々掃除・洗濯などのお手伝いをしているのは、誰かしら。そんなの今更ですわ。さぁ、行きましょう」


子供たちの手を取ると木蓮は先頭きって歩いていった。観覧席の出入り口付近まで来ると、白夜が突然振り返り、紫連に言った。


「紫連。お前、今から城の前まで行って水蓮を迎えに行け」


紫連は驚いたように目を見張る。


「お嬢もこっちに来るのか?」


紫連の代わりに青笙が口を開く。


「信明に頼まれたんだよ。水蓮、毎年新年祭を楽しみにしてたのに、今回ほとんど、見て回れてないから案内してやってくれってよ」


「でも、兄貴さっき信明様水蓮に会いに行くって言ってたじゃないか。なのに何で?」


青笙の問いにめんどくさそうに白夜が答える。


「詳しいことはわかんねぇ。信明も何かと忙しくて、長い時間抜けられないんじゃないのか?」


「んじゃ、紫連の代わりに俺がお嬢の案内してやるよ」


にやにや笑いながら青笙が立候補した。


「駄目だ」


白夜が青笙の提案を却下する前に紫連が答えた。

青笙は目を丸くする。


「なにかとすぐ問題を起こすお前とお嬢様を二人きりにするわけにはいかない」


いつも通り無表情な顔と口調だったが、積極的に誰かに関わろうとするなんて珍しい。

お株を奪われた白夜も呆気にとられている。紫連はそれだけ言うと二人を置いてさっさと水蓮を迎えに城門前へと急いだ。そして、青笙は、白夜が固まっていることをいい事に紫連を追いかけていった。


「待てよ。しれーん」


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