幼き初恋 暗闇の傷16
外は雲ひとつ無い晴天。全力疾走で逃げ出した水蓮は外へ出ると、疲れてヘロヘロになってしまった。さっきまで、舞を踊り、休憩なしに外へ出てきた。しかも、先ほどの全力疾走で体力の限界。視界が黄色く染まり、目がチカチカしてきた。
『まずい。このままじゃ、倒れる。どこか、休憩できる場所は?』
辺りを見回すとちょうど木陰の下の石段に目を留める。
『ちょっと、あそこで休憩しよう』
少しふらふらしながら、道を横切る。すると、突然腕を掴まれた。
「おい。どうした?気分でも悪いのか?」
見上げると、背の高い少年が水蓮の腕を掴んでいた。
「ちょっと、しんどくて。あそこで休もうと・・・・」
水蓮はさっき見つけた石段を指差した。少年は水蓮の額に浮かんでいる汗をそっと指で拭うと、問答無用とばかりに水蓮を抱き上げた。
「きゃーー!」
突然の出来事に水蓮は足をバタつかせ、下ろすように言う。
「静かにしてな。辛いんだろ。大丈夫。取って食ったりなんかしねーから。大人しくしてろ」
そう軽い調子で言うと、早々と石段に水蓮を下ろした。
「ちょっと、待ってろ」
少年はどこかへ駆けていき、しばらくすると、すぐ戻ってきた。
その手には竹筒。
「ほら、飲みな」
これまたひょいっと軽く差し出された竹筒を素直に受け取ると水蓮は早速口をつけた。
「冷たくて、おいしい」
水蓮から笑みがこぼれる。それを見た少年は自分の手に残しておいた、もう一つの竹筒を手巾の上に傾け濡らすと水蓮の額に当ててやった。ひんやりとして気持ちがよく水蓮は目を細めてされるがままになっていた。初めは額、それから頬にいき汗を拭ってくれる。あまりの気持ちよさに目がとろ~んとしてきた。
「ありがとう」
とろ~んとした目で今度は少年に向かって微笑む。少年の手が止まる。しばらくすると、ゆっくりもう一方の手が肩にかかる。水蓮は肩にかかった手を見て、どうかしたのかと少年の方を見た。その時…。
「お嬢さまっ!」
切羽詰ったような声が水蓮の耳に届いた。