幼き初恋 暗闇の傷13
『はあはあはあ』という荒い息づかいが聞こえる。水蓮と琥珀の動きが止まると、割れんばかりの大歓声が辺り一面に響き渡った。
『終わった』
歓喜と興奮の嵐の中に水蓮たちはいた。周りを見渡すと皆立ち上がり、拍手をしながら水蓮たちに向かって何やら叫んでいる。
『みんな喜んでくれた?』
未だかつて経験したことのない熱気に当てられ水蓮は少々戸惑っていた。すると、水蓮の視界に見慣れた顔が飛び込んでくる。
『あっお母様にお兄様。その隣に白夜だわ』
水蓮が見ているのに気がつき皆、手を振ってくれている。水蓮は手を振り返そうと手を上げた。
すると…。
「お嬢ーーーー!」
凄まじい大音量で水蓮を呼ぶ声がした。青笙だ。耳元で叫ばれた周りの人達は耳を押さえて渋い顔をしている。
『青笙の声すごーい。隣にいる人、可哀想~』
水蓮はそう思って皆と同じように青笙の横で耳を押さえている人を気の毒そうに見た。
その人も水蓮の方に目を向ける。二人の視線が交錯する。水蓮の心臓がドクンと鳴った。
「水蓮。早く陛下に礼をしないと」
後ろから琥珀の声が聞こえる。それを合図に水蓮の目からいく筋もの涙が流れ落ちた。
突然泣き出した水蓮に琥珀は驚き駆け寄った。
「どうしたの?水蓮」
琥珀は懐から手巾を取り出すと水蓮の涙を優しく拭った。
「きてくれた」
「え?」
涙声でそれだけ答えた。
「『来てくれた』って紫連?」
水蓮はコクリと頷く。拭っても拭っても後から後から涙がこぼれる。そんな水蓮に琥珀はニコリと穏やかに微笑みかけて、こう言った。
「それじゃあ、早く紫連の所にいかなくっちゃね。さぁ陛下に礼をしましょ」
そう水蓮を促した。二人は舞台の中央に並んで立ち、一人は微笑みながら、一人は泣きながら、この国の絶対権力者にして琥珀の父『劉丞』に礼をとり舞台から退出していった。
水蓮の父、劉嶺は皇王の隣で水蓮を見送る。そんな劉嶺を弟である皇王劉丞は苦々しい顔つきで眺めていた。