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幼き初恋 暗闇の傷12


観覧席に『ゴーンゴーン』という鐘の音が響き渡った。奉納舞開始の合図である。


「おっ。いよいよだな。紫連」


「ああ」


「大丈夫かな。お嬢。緊張してなきゃいいけど」


「・・・・・」


やや緊張した面持ちで舞台を見つめる青笙と紫連。そこに二人の少女が現れた。そして、一人の少女を見た瞬間、紫連は彼女の姿に目を奪われる。数千人の観衆に囲まれた舞台に立っている彼女は紫連がよく知る少女とは、まるで違って見えた。


「こりゃ、たまげた。お嬢って、すげぇ美少女だったんだな」


青笙も紫連同様驚き、口をあんぐりと開けていた。


「確かに、少し化粧をして衣服を変えるだけで、ここまで変わるとは、びっくりだな」


続いて白夜が言う。


「それだけじゃないよ。いつもと表情が違うだろ?」


最後に信明が冷静に水蓮変貌の原因を説明する。


「いつもの水蓮は表情がくるくる変わって愛嬌があって可愛い。だから、あまり水蓮の顔を細かく見ることもなかっただろう?でも、あんな風に表情を消すと、神がかった巫女のような神秘的な雰囲気になるんだよね」


「なぁ信明。舞を舞っているときはいつもあんな感じなのか?」


こめかみをポリポリかきながら白夜が聞いた。


「ここまで、破壊力抜群じゃないけどね」


白夜は心配そうに『はぁ~』と息を吐き空を仰ぎ見た。


「今日水蓮に惚れちまった野郎はたくさんいるだろうな。あーあ。水蓮がお年頃になったら、大変だな。皇に血の雨が降るかも」


その言葉に紫連の肩がぴくりと動く。顔は相変わらず無表情だが、やや強張り、紫連の周りだけ空気が若干、重くなった。そんな紫連のごく僅かな変化に青笙だけ気がついたが、何も言わず見てみぬ振りをし、視線を舞台に戻した。

音楽が流れ始める。静かに二人が舞い始めた。最初はゆっくりと、そしてだんだん速くなる。体が回転すると同時に袖がひるがえり、水蓮の髪を揺らす。


「あれー?」


それまで、真剣に水蓮の舞を見ていた信明が突然なんとも間の抜けた声をあげた。


「しんめ~い」


今まで、まるで天上の世界に入り込んだかのような神秘的な雰囲気だったのに、その雰囲気を信明のたった一言によってぶち壊され、白夜は不満の声をあげた。


「ごめん。ごめん」


信明は両手を合わせて謝った。


「で、何が『あれー?』なんだ」


ムスッとしながらも白夜は信明に先を促す。


「水蓮の髪に赤い花の簪が挿してあるんだけど、見える?」


「・・・・ああ、本当だ。あるな。で、それが何だ」


「さっき、始まる前に会ってきたんだけど、そのときはしてなかったのに、『おかしいなぁ』と思って」


「簪ねぇ。それで?」


「それだけ」


「・・・・・・」


白夜はがっくりとうな垂れた。


『たったそれだけのためにあの雰囲気を壊されたのか。』


信明とは、かれこれ、もう十年の付き合いになるが、信明のこのおっとり感には時々イラッとすることがある。


『はぁ~』


心を落ち着かせようと白夜は本日二度目のため息を吐くと斜め後ろにいる紫連たちを見た。

紫連の体が少し前のめりになっている。


『基本的に他人に興味なしの紫連にしては珍しいな』


白夜は紫連に合わせていた視線をそのまま青笙の方にずらす。すると青笙とちょうど目が合った。青笙がこちらを見てニヤッと笑い水蓮を指さした。次に自分の頭を指さし、再びニヤリとすると紫連の方へクイッと顎をしゃくる。その仕草だけで白夜は信明の疑問の答えが分かってしまった。白夜はもう一度水蓮の髪にささっている簪をよく見てみた。


『山茶花の花簪か。花言葉は困難に勝つ・・・・。紫連と水蓮には、その言葉通り、二人の間にある様々な困難に負けないで、できれば結ばれて欲しいけどな』


曲が終わる。舞姫二人の動きも止まる。観衆の拍手と大歓声を聞きながら、白夜はそっと、天に祈った。


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