幼き初恋 暗闇の傷11
それから、いくらも経たないうちに二人を呼びに係りのものが、やってきた。
「琥珀様、水蓮様。そろそろお時間です」
二人は同時に頷くと顔を見合わせて手を取り合う。
「行くよ。琥珀」
「頑張ろうね。水蓮」
二人は背筋を伸ばし、その部屋を出た。すると後ろから一人の若い侍女に水蓮は呼び止められた。
「水蓮様」
「何?」
侍女のほうを振り返る。
「これを。水蓮様にみたいです」
侍女から差し出されたのは小さな長方形の形をした箱で蓋に『水蓮様へ』とだけ書かれていた。
「あの、これは一体誰が?」
「存じません。お部屋の外に置かれていたのを先ほど見つけましたので」
「そう。ありがとう」
水蓮はとりあえず箱を開けてみることにした。
出てきたのは赤い山茶花の形をした一本の簪。
「可愛い」
水蓮に握られた簪を見た琥珀もうんうんと頷いた。
「本当。可愛い。それに水蓮の黒髪によく映えそう」
「でも、一体誰が・・・・」
「水蓮のことが好きな人からじゃないかしら?」
「ええ!・・・・それじゃあ、もらえないよ」
水蓮は頬を染め、困ったように手元の簪を見つめた。
「いいじゃない。もらっといても。たぶん今日のためにその人その簪を選んだのよ。『水蓮が無事に舞を踊りきれますように』って。水蓮は山茶花の花言葉知ってる?」
水蓮はブンブンと首を横に振った。
「『困難に打ち勝つ』よ。今日にぴったりでしょ」
琥珀の言葉を聞いて水蓮は簪を撫でた。目を閉じて深呼吸。
『決めた』
「琥珀。この簪。髪に挿して」
「もらう気になったの?」
「うん。折角だから、お守りにさせてもらう」
水蓮が簪を琥珀に差し出すと琥珀はそれを水蓮の髪に挿した。
「ありがとう。琥珀。なんかできそうな気がしてきた」
「うん。その意気」
二人は微笑み合い、そして、舞台へと向かった。