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幼き初恋 暗闇の傷10


舞台の周りは三百六十度人で埋め尽くされていた。王都中の人々がここに集まってきているのではと思えるぐらいの盛況ぶりだ。


「わぁー。舞台の前、凄い人だかりよ。水蓮」


「きゃー!そんなこと、わざわざ教えなくてもいいよ。琥珀」


ここは宮城にある部屋の一室。これから、民の前で『五穀豊穣・子孫繁栄』の奉納舞を神に捧げる舞姫二人が出番を待っていた。

一人は黒髪に茶色の瞳の美少女。もう一人は白金の髪に琥珀色の瞳をした平凡な顔立ちの少女だった。ちなみにガチガチに緊張している黒髪のほうが劉嶺の娘、水蓮で、もう一人は何を隠そうこの国の第三公主琥珀だ。琥珀は公主ということもあり、多くの人の前で芸を披露することに慣れているようで、こっそり窓から外の様子をうかがっている。


「琥珀ー。私ちゃんとできるかな?」


「大丈夫よ。自信持って。あんなに練習したんだから。上手くできるわよ」


「うーん。でも自信ないよー」


「万が一失敗しても、私がちゃんと上手く水蓮に合わせるから。ね」


「うん」


琥珀はにこにこしながら水蓮を励ました。琥珀は公主だ。本来ならば水蓮は琥珀に敬語を使わなければならない。だが、二人は従姉妹で同い年。気も合い、舞の練習で会う度に仲良くなって今では何でも話せる無二の親友だ。二人の間で敬語を使うことはなくなった。周囲も暗黙の了解で許している。


『紫連ともこんなふうに敬語無しで話したいなぁ』


水蓮は、ふとそう思った。


「水蓮、今、紫連のこと考えていたでしょ」


突然、琥珀にそう指摘された。


「えっ。・・・・えぇぇぇぇーーー!」


図星だった。


「やっぱり」


「どうして、わかったの?」


「紫連のことを考えているときの水蓮は必ず赤くなったり青くなったりと百面相になるからすぐ分かるわ」


「うっ」


それも図星だった。


「今日、紫連も見に来るんでしょ?しかも、舞がよく見える所で」


「たぶん」


「じゃあ、頑張らないと」


琥珀の言葉に頷くと背後に人の気配がした。


「そうだよ。水蓮。紫連が見てるぞー」


ちょうど、信明が部屋に入ってきたのだ。


「お兄様ー!」


うれしさのあまり琥珀がいることも忘れ水蓮は信明に抱きついた。


「水蓮は本当に甘えん坊さんね」


微笑ましい光景に琥珀に笑みがこぼれる。琥珀の言葉で我に返った水蓮は信明から離れ、赤面していた。信明はというと、いつもと変わらない穏やかな表情で琥珀に向き合い膝をついた。


「公主琥珀様ですね。お初におめもじつかまつります。劉信明と申します」


文句のつけようもない完璧な礼だった。そして礼を受けた琥珀は信明の手をとると、こういった。


「水蓮の兄上様ですね。お立ち下さい。あなた方は私と同じ王族といえど臣下の子。公主である私に礼を尽くさねばならない義務があります。しかし今ここにいるのは私たちだけ。今はただの従兄妹同士です。ですから、信明様もこのような堅苦しい礼など不要です。どうか、琥珀とお呼びください」


十歳とは思えないほど、しっかりした受け答えに信明は少し驚いたが大人しく琥珀の言うとおりにすることにした。


「わかりました。琥珀様」


「できれば、様も敬語もなしで。水蓮と同じように話してください」


「いえ。それは・・・」


信明は戸惑った。琥珀は従妹で年下だが、公主は公主。呼び捨てのうえ敬語もなしにすることはできな

い。


「お兄様。他に誰もいないときだけだから、いいでしょ?」


「水蓮」


信明は困った。そして水蓮は更に琥珀に加勢した。


「琥珀。ずっと、兄上様が欲しかったんだって。だから、三人でいるときは琥珀をお兄様の妹にしてあげて」


それを聞いて信明は、とても驚いた。なぜなら、琥珀には、もうすでに兄がいるからだ。


「それはどういう・・・・・。琥珀様には、すでに兄上様がいらっしゃいますが・・・」


信明はそう言い今年十四歳になるこの国の皇太子の顔を脳裏に思い描いていた。


「瑛お兄様とはお話したことがないんです」


琥珀は悲しそうに言った。


「なんですって!」


信明は仰天した。母が違うとはいえ兄弟なのに話したことがないなんて。


「お兄様。琥珀は瑛様だけじゃなくて他のご兄弟とも話したことがないのよ」


悲しそうな琥珀を気遣いながら水蓮が言った。


「どうしてなんですか?」


「皇后様がお母様を嫌ってらっしゃるから・・・・だと思います」


信明はうーんと唸った。琥珀の母、孫妃は貴族ではなく城で王侯貴族に舞を披露する妓女の出で王の第一の寵妃だ。その孫妃を気位の高い皇后が毛嫌いしているという話は有名だった。


『しかし、子供同士の交流まで妨げるとは大人気ない』


信明は琥珀に同情し『はあ~』と息を吐くと、腹をくくった。


「わかった。三人でいるときは呼び捨てで敬語なし。これでいいかい。水蓮、琥珀」


「やったー」


二人は手を取り合いピョンピョンと兎のように飛び跳ねた。信明はそんな二人を優しく見つめ、そっと抱き寄せた。


「じゃあ、そろそろ私は席に戻るよ。二人とも頑張って」


琥珀と水蓮、それぞれの肩をポンポンと軽く叩くと信明は観覧席に戻っていった。


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