幼き初恋 暗闇の傷
構想では、結構長編になる予定です。戦闘シーンがあるので、若干、流血などを表現した言葉がでてきます。
時は群雄割拠の戦国時代。大小様々な国が起こり、そして滅亡していく弱肉強食の乱世。その中で緑豊かな大地と雄大な川をもつ大陸屈指の強国、『皇』に一人の女児が誕生した。その少女は蓮の花が咲き乱れる池のほとりの庵で生まれたことから劉水蓮と名づけられた。
―十年後―
ここは、皇国王都『光濫』のとある屋敷。もうすぐ、新年を迎えるという季節。一人の少女が母親にまとわりつき、必死に何かをねだっていた。
「お母様。お父様は今日も皇慈院へ行くのでしょう?私も一緒に行きたいです」
皇慈院とは水蓮の父が設立した国立の孤児院のことだ。大国とはいえ今は戦国乱世。国境周辺では他国との小競り合いが絶えることはない。そのため、町には生活苦にあえぐ戦災孤児が溢れた。そこで見るに見かねた水蓮の父、劉嶺が国王劉丞に奏上し皇慈院を作ったのだ。劉という姓からもわかるように水蓮の父は王の血縁者。それも王位継承権を持つ現国王の異母兄にあたる。
「いけません。水蓮。お父様はお仕事で皇慈院へ行かれるのですよ。あなたがついていっ
たら、邪魔になるでしょう?」
「絶対にお父様のお邪魔はしません。だから、いいでしょ?お母様~」
「我儘を言うのはおよしなさい」
「お母様~」
「駄目です。今日は舞の先生がいらっしゃる日ですよ。新年の奉納舞を皆様方に披露する日も近いのですから、練習を休ませるわけにはいきません。わかりましたね」
「でも……」
「分かりましたね!」
「・・・・はい・・・・」
母に再度強く言われれば、頷くしかなかった。水蓮は眉間に皺を寄せ、ぶすっとした顔で返事をした。あたって砕けろといった感じで母に頼んでみたがやはり駄目だった。しかし、水蓮には今日はどうしても皇慈院へ行かなければならない理由があった。諦めるわけにはいかない。『正攻法が駄目なら裏技だ。』と決心し、水蓮は周りを窺いながら、誰にも見つからないよう、こっそりと馬車のある納屋へと歩いていった。