神社不審じゃストレンジャー
『メシうま』とは……
飯が美味いことである……ッ!
一仕事終えた後や、ひとっ風呂浴びた後だったり、親しい友人や恋人と囲む食卓は飯が美味い……というのが通説である。
こじんまりとした神社のまたこじんまりとした境内で、1人のしがないOL、榊成実と自称神様は今日も夜な夜なお供えで人知れず『メシうま』に興じるのであった……。
虫も鳴かない真っ暗闇に、石造りの階段を踏みしめる音だけが今日もこだまする。
そんな寂しい境内に、今日も1人のしがないOL、榊成実がコンビニのレジ袋をぶら下げやってきた。
「ほぼ毎日階段を上り下りしているせいか、段々体力がついてきてるような……。」
ここ数年のOL生活で体力が悲惨なことになっていた成実だったが、最近は階段の上り下りで鍛えられたお陰で息切れしなくなっていた。
「こういうのは長寿のご利益とかで、あの自称神様のお手柄にカウントされてくのかねぇ……癪だけど。」
成実はお賽銭箱の前まで歩いて立ち止まった。
「ま、自称神様のおかげであることは確かだし、とりあえず拝んどくか……。」
成実は手を合わせて目を瞑り、
「南無阿弥陀……!」
「それはお寺でやる方じゃあ……。」
後ろから突っ込まれる声がした。
成実が足繁く会いに通っている自称神様はいつも決まって背後から現れる。
またかと思って振り向くとそこには、白装束の上半身に、鮮やかな朱色の袴を纏った正真正銘の巫女さんが……、
「ぎゃぁぁぁああ!!??」
「ひいっ!!??」
成実は思わず汚い悲鳴をあげ、賽銭箱にもたれかかった。
巫女さんも成実の悲鳴に驚いたのか、尻餅をついていた。
『巫女さん』とはいったものの、前に会った自分とそっくりの巫女しんとは別人だった。
「あああああのっ、大丈夫……ですか?」
「は、はい……なんとか。」
自分が大声を上げたせいですっ転んだのにも関わらず、巫女さんは成実を労った。
くうぅ……!これだよ、マジもんの聖職者ってやつぁ!
「すみません、まさか人がいるだなんて思わなかったもので……。お怪我はありませんか?」
成実はいち早く復帰して表情を整えると、爽やかに巫女さんに歩み寄って手を差し伸べた。
「はい……///」
「掴まって♪」
成実は巫女さんの手を掴み返すと、グイッと引っ張って目の前に立ち上がらせた。
……立ち上がった巫女さんの身長が成実よりもほんの少しだけ低かったためか、小さな手でクシクシと整えられる栗色の髪に目を引かれた。
「貴方も、ここの神社の巫女さんですか?」
「は……はいっ!///」
巫女さんが成実を見上げる眼差しは小型犬を彷彿とさせた。
「あなたは……、
「通りすがりのしがないOLですよ♪」
「OLさん……///」
巫女さんの視線が熱を帯びているような気がしたところで、成実は両肩にズシンと重い何かがのしかかる感覚を覚えた。
「う"……ッ!?」
「ぬぁぁぁあに気取っておるんじゃ!この大うつけのスケコマシが……!」
頭の後ろで聞き慣れた声に罵倒された。
今日は出てくるのが遅かったなと自称神様の方を振り向こうとしたところで、巫女さんが小首を傾げて呟いた。
「『う』……?」
巫女さんには自称神様が見えていない……!?
まあ見えている方が異常なんだろうけど。
「ほぉ〜れほれ、巫女が成実のことを不審がっておるぞぉ♪どう乗り越える?」
耳元で自称神様が吐息多めに煽ってきた。
「ッ!!??//////」
耳を真っ赤にして身を捩る私を見て、巫女さんがいっそう不思議がっていた。
自称神様、巫女さんに自分が認知されてないことに気づいてるな……!?
「あ、ああ……こんなところで会うなんて、まるで『運命』だねって……ハハ。」
「巫女なんだから神社にいるに決まっておろうが……。」
自称神様の言う通り、我ながら苦しすぎる言い訳だ。
「運命……///」
「「え?」」
巫女さんは顔を赤らめた。
「……はい。勇気を出して声をかけて良かったです♪///」
「え、勇気……?」
「はっ!?ごごっ、ごめんなさいっ!?///」
巫女さんは逃げるようにお賽銭箱の後ろに身を隠した。
「や〜い、すけこましぃ〜。」
「うるさいなぁ……。」
成実は巫女さんに聞こえないように声を潜めた。
「じゃがしかしどうするんじゃ?あの巫女、あっっつぅ〜いらぶらぶの波動を感じるぞ?」
「参っちゃうね……///」
自称神様の細腕が成実の首を締め上げた。
「〜!!??」
「おのれっ?私を差し置いてからに……ッ!」
自称神様は、声が漏れないように堪えているのもお構いなしだった。
「なんで神様が張り合うの……ッ!?」
「……っ、」
自称神様は慌てて腕を解いた。
「それは……ッ!///」
「それは?」
「こっ、この中なら私がぶっちぎりで一番なのに……!私の前でも良い顔しない成実が悪いん……、じゃッ!///」
成実の背中に自称神様渾身のドロップキックが炸裂した。
「ぉわ……っ!?」
バランスを崩した成実はヨタヨタした足取りでなんとかお賽銭箱に掴まって転倒を免れた。
「……っ『と』!」
お賽銭箱に掴まった音に反応して顔を上げた巫女さんと目があった。
「……///」
「……あ。」
人気のない神社で突然お賽銭箱に突進なんて、かんっっぜんに不審者じゃん!?
どうにか誤魔化さないと……!?
「『と』……、とにかく出てきてお話しない?」
「……はい。」
巫女さんの眼差しが痛い……!?
巫女さんが立ち上がると成実はお賽銭箱の前のちょっと低い段差に腰を下ろした。
「……失礼、します///」
巫女さんは肩が触れそうな距離に腰を下ろした。
「わ〜い私も〜♪」
自称神様は成実の膝に後ろ向きでダイブした。
「『な』……ッ!?」
「ほれほれ、巫女に構ってやらんとますます不審者じゃぞ〜?」
どうやら自称神様は私をおもちゃにする気らしい。
「『な』……なにか、ご用でしたか?」
「あ、そのっ、ええっと……///」
今度は巫女さんの方が何かを誤魔化すようにアタフタしだした。
「OLさんは、どうしてこんな時間に神社へ……?」
「 」
至極真っ当な疑問だ。
「こんな所、とてもお仕事帰りに立ち寄る場所とは思えないんですけど……。」
「あ、いやそれはッ!?」
やっぱり不審がられてる…….!?
「や〜い不審者w」
「『こんの』……ッ!」
「『こんの』……?」
腹が立って思わず出た声を拾われた。
「こ……、『こんの』近くに引っ越して来たもんで、お散歩コースの開拓ですよ!……ははっ。」
後で覚えてろ。
「それで最近急に真っ直ぐこちらに寄られるようになったんですね。」
「いや〜、お陰で毎日階段登り降りするものですから、ちょっと体力ついちゃいましたよ♪これも神様のご利益ってやつですかね?」
「うむ
「そんなことありませんよ♪」
「なんだとこやつ……!」
「毎日運動したOLさんの努力の報酬だと思います!私も息切れしなくなりましたから♪」
巫女さんはスッと腕を横に伸ばし肘を折り曲げグッと拳を握って、筋肉を誇るようなポーズをしてみせた。
「あはは……。巫女さんは、こんな時間にお仕事ですか?」
「え"……、
巫女さんの顔が一瞬ひきつった。
「そ……、そうなんですよ。ああ!まだお仕事が残っているんでした!?」
巫女さんはあからさまに焦った様子で立ち上がると、
「ま、また来てくださいね!?いつでも待ってますから〜!」
逃げるように境内の奥へと走り去っていった……。
「大変なんだね巫女さんって。……お仕事、何してるんだろ?」
「……。」
自称神様は険しい顔で唸っていた。
「そうだ、神様なら知ってるでしょ?」
「……いや。」
「何百年も四六時中ここにいるのに?」
「私はあんな巫女知らんぞ?」
「じゃああの人。不審者なの……?」
「ここのこと『こんな所』呼ばわりしたり、神様のご利益否定するやつが巫女なわけないじゃろう。」
自称神様に言われて、成実は巫女さんの発言の節々に神社や神への不信仰があったことを思い出した。
「……まあ、そんなことよりもじゃ!」
自称神様が成実の手首を握って揺すると、コンビニのレジ袋がガサガサと鳴った。
「今日は何を持ってきたんじゃ♪」
「はいはい……、」
神社の裏。
「……はぁ。別人のふりをするのはあんまり慣れませんねぇ。」
栗色の髪の女性はキョロキョロと周りを見回して誰にもみられていないことを確認すると、
「よい……、しょ。」
その場でゆったりくるんと周り、山吹色の一つ結びの長い髪にちょっぴりつり目な『巫女さん』の姿に変化した。
「今までいろんな姿で人の前に現れましたが……、やっぱりこの姿が一番落ち着きますね♪」
巫女さんは壁に寄りかかりストンと息を深く吐いた。
「それにしても……。今日も素敵だったなぁ……///」
巫女服をギュッと抱きしめ、ほおを緩めた。
「やっぱりあの『2人』を引き合わせたのは正解でしたぁ……///さっきのでご飯1俵はいけそうです♪」
巫女さんはよいしょと反動をつけて壁から離れると、夜の闇に消えていった。




