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ぽてと・ほーんてっど

『メシうま』とは……


飯が美味いことである……ッ!


一仕事終えた後や、ひとっ風呂浴びた後だったり、親しい友人や恋人と囲む食卓は飯が美味い……というのが通説である。


こじんまりとした神社のまたこじんまりとした境内で、1人のしがないOL、榊成実(さかきなるみ)と自称神様は今日も夜な夜なお供えで人知れず『メシうま』に興じるのであった……。

カラスもお家に帰る頃、今日も今日とてこじんまりとした神社の前に、1人のしがないOL、榊成実(さかきなるみ)がやって来た。




「…………。」




一段一段がちょっと高めの古い石造りの階段の1段目に足をかけると、




……いる。




成実(なるみ)は背後に気配を感じた。


背筋も凍るような恨みや憎悪の類ではなく、ワクワクそわそわといった無邪気な気配。


振り向こうかと迷ったが、成実は素知らぬ顔で階段を上り切った。




「……ふぅ。」




境内を歩き進んで、お賽銭箱の前のちょっと低い段差に腰を下ろす。


(かじか)む指先で持っていたコンビニのレジ袋を漁り、取り出した厚紙の容器からはまったりホクホクとした美味しそうな湯気が立ちこめていた。




「なんじゃそれ……!?」




肩に両手で体重をかけられる感覚がすると、顔のすぐ横で烏の濡れ羽色の短い髪越しに、厚紙の容器にキラキラとした眼差しを向ける無邪気な横顔が現れた。




「なあなあ、」




この子が階段から付き纏っていた気配の主……自称神様である。




「良いの神様?まだお賽銭払ってないのに出てきちゃって。」




神社といえば神様、神様といえばお賽銭。


成実は今まで、自称神様と会う前に100円硬貨をお賽銭箱に投げ入れていたし、自称神様の方もゲームの筐体の様に100円入れられるまでは頑なに姿を見せなかった。




「う……、うるさいっ!そんなに美味しそうなもんぶら下げてる方が悪いんじゃ……!///」




どうやら自称神様は死んでも食欲には抗えない様だ。




「はいはい、じゃあご開帳〜♪」


「もっと神聖なものに使う言葉じゃぞそれ……。」




厚紙の容器を開けると、まったりホクホクした濃い湯気がホワッと立ち上がり、中からツヤッツヤな黄金(こがね)色に輝くじゃがバターが姿を現した。




「ほわぁぁぁぁぁ//////」




自称神様が歓喜の悲鳴をあげた。




「は、早くそれを……、お供えっ!お供え〜!」




神様はじゃがバターも霞むほどに目を輝かせ、滝の様に涎を垂らし、だらしない顔を晒して親におもちゃをねだる子供の様に成実の肩を揺すった。




「熱いから気をつけてよね?後で私も食べるんだから……!」




お賽銭箱の上に厚紙の容器を置くと、自称神様は禁断症状を起こした薬物依存者の様にじゃがバターにがっついた。




「お〜、しっかし何度見ても不思議だねぇ……。」




成実の隣では美味しそうにじゃがバターにがっつく自称神様、お賽銭箱の上にはモクモクと湯気を出す五体満足のじゃがバター……。


自称神様はお供えされた食べ物の霊魂的なものを食べてるらしいので、言わばこれは食べ物の幽体離脱な訳だが、何度見たって怪奇現象である。




「ごちそうさまでしたっ。……はぁ♪///」


「速っ!?」




自称神様はパンっと手を合わせると、神聖さ皆無の緩み切ったなんとも俗な笑顔で雲の上をボンヤリ見つめていた。




「さ〜てと、冷める前に私も


「ちょっと待ったぁぁぁああ!!」




じゃがバターを食べようと腰を上げると、ほっぺに食べカスをつけた自称神様が目の前に両手を広げて立ちはだかった。




「食べカスついてるよ?」


「ど、どうも……///」




自称神様は成実が指差した場所を指で拭うと、そのまま咥えて指を白装束で拭った。




「服、いいの……?」


「これも霊体じゃしな。」




便利だなー霊体……。




「……で?何で待つの?じゃがバター冷めちゃうんだけど。」


「それはまずいっ!?時間がないから手短に伝えるぞ!」




突然自称神様が手を合わせてギュッと目を瞑った。




「頼むっ!成実に取り憑かせてくれッ!!」


「……へ?」




取り憑く?……まあ、自称神様は死人、つまり幽霊であることは知っていたがそんなことができるのだろうか?




「何で今?」


「今じゃないとダメなんじゃ……!」




手のひらを擦り合わせる自称神様の向こうのじゃがバターが視界に入って理由を察した。




「……まさか、取り憑いて私の身体でじゃがバター食べれば二度美味しい……ってわけ?」


「ぎくぅぅう!?」




ほんっっと、神聖さのかけらも無いなこの自称神様……。




「神様が取り憑いて、私はじゃがバター味わえるの?」


「たぶん!」


「たぶん!?」


「頼むっ!上手くいけば2人一緒にじゃがバターが食べられるんじゃ……!」




これまで20年余り生きてきて自称神様以外の幽霊になんて会ったことないし?当然取り憑かれるのも初めてだから、全く怖くないと言えば嘘に……、




「頼む……!」




怖くは、ないな……。


何より、このまま長引けばじゃがバターが冷えて硬くなってしまう。




「ちょっとだけだよ?」


「やったーー♪♪」




自称神様は喜びでピョンピョン跳ね回った。




「ほーら、さっさと取り憑かないと冷めちゃうよ。」


「おっと、そうじゃった!?じゃあ行くぞ……っ!」




自称神様が腕を回してその場で屈伸すると、




「合っっ…………、体っ!!!」




水泳の飛び込みみたいな体制で成実に向かってダイブした。




「…………、」


「成功……?」




一瞬視界が暗くなる様な感覚を得ると、すぐ後ろから自称神様の声がした。




「あれ、取り憑いたんじゃないの?」


「成実、意識あるんじゃな。」


「……なんかあるし、普通に話せてる。」




振り向くと、自称神様はエア二人羽織状態で成実の背中にひっついていた。




「これ、本当に成功なの……?」


「た、たぶん……!」




成実は両手をグーパーさせて自分の意思で身体が動かせることを確認した。




「神様は私の身体動かせるの?」


「やってみるか……。」




自称神様はゼンマイが切れかけたおもちゃのようなぎこちない動きでギコギコと成実の身体を動かして数歩歩いて見せた。




「……成功してるんだよね?」


「知るかっ!そもそも誰からも教わっとらんし見たこともないんじゃぞ。」


「……危ないし私が身体動かすよ?」


「頼む……。」




一悶着の末、エア二人羽織状態でお賽銭箱の上のじゃがバターを回収した。




「いざ……、


「「いただきます……ッ!」」




付属していたプラスチックのフォークでじゃがバターを崩し、一欠片を刺して口へ運ぶ。


吹きっ晒しで放置してたせいか、じゃがバターはちょうど温かくいただけるくらいに程よく冷めていた。


そして何より……、




「「うっっっま!!??」」




ただのじゃがバターなのに異様に美味しく感じた。




「「……え?」」




すぐ横にある自称神様の顔と目があった。


どうやら『美味しい』という感覚は2人同時に感じていたようだ。


そして、さっきのじゃがバターが異様に美味しかったことを思い出し、成実の頭に一つの仮説が浮上した。




「さっきのじゃがバターとどっちが美味しい?」


「断ッッ然!こっちじゃ♪♪」




成実は自称神様の回答で確信を得た。




「この状態だと2人それぞれ感じた感覚が共有されて増幅した様に感じるみたいだね。」


「何言っとるんじゃ?」


「私も神様も普段は1感じるのが、この状態だと2人とも2感じてるってこと。」


「つまり、倍美味いのじゃな♪」




自称神様の屈託のない笑顔にあてられて、こっちまでなんだか楽しい気分になってきた。




「そーゆーこと♪」


「……ん?待てよ。」




自称神様は突然険しい顔になった。




「飯を食う分には倍美味いが、仮にそこの賽銭箱の角に足の小指をぶつけようものなら……、


「2人とも大ダメージだね。」


「なんじゃとぉ!?」


「いいとこ取りはできないってことでしょ。」


「う〜む、ずっと取り憑いてるのも考えものじゃな……。」


「食べたら離れてよね?」


「なら早く次の一口を食べんか、ほれほれ♪」




くっ、自称神様がテンション爆上げなせいでなんだかこっちまで楽しいみたいに……!




「「ごちそうさまでしたっ。」」




なんだかんだでじゃがバターを食べ切った成実はそのままボンヤリと真っ黒な空を眺めていた。




「……まだ離れないの?」


「どうしよっかな〜♪成実が私とひっついていたい気持ちがどんどん流れてきておるからのう♪」


「『ひっついて』、ねえ……。」




自称神様が指摘する通り、成実は今の状態をなんだかんだ役得だと感じていた。というのも……、




「……んなッ!?///」


「どうした神様?」


「貴様ッ!///……背中のっ、やわ……ッ!?///」


「密着してるからね。」




思考まで共有されたのか、自称神様は顔を真っ赤にして明らかに動揺していた。




「ふ、太ももとか……ッ、そんな……///不埒じゃぞっ!?//////」


「ふぅーん。不埒、ねぇ……///」




成実の思考が自称神様に流れ込んでいるということは、このエア二人羽織状態ではその逆も然りで、成実の頭には真っピンクでキラキラした背景の中で成実と自称神様がらぶらぶしているイメージが雪崩のように流れ込んできていた。




「……神様って、いつも私でこんなこと考えてるわけ?///」


「う……///うるさーーーいっ!!//////」




背中を中心として全身にコルクの栓が抜けたような感覚を覚えると、自称神様は背後から首に細い腕を回してそのまま締め上げた。




「ゴハァッ!?」


「成実が卑猥なこと考えるから悪いんじゃッ!!///成実とらぶらぶしたいとか、四六時中考えてるわけないじゃろーー!!//////」




自称神様は成実の身体がのけ反る勢いで締め上げた。




「ちょっ、離れてから首締めんのはズルくない!?」


「うるさいっ!///」




成実が首締めから逃れようとして背中を自称神様の胸元に押し付けると、自称神様は腕を解いて飛び退いた。




「……あれ。」




突然解放されたことに戸惑って成実が振り向くと、自称神様は全く乱れていないのに白装束の胸元を両手で庇っていた。




「く……///貴様っ、まさかこんな時まで……!///」


「それは流石に言いがかりでしょ……。確かに思い返せば柔らかかったけ


「成実の、大うつけーーーーッ!!!//////」




自称神様が回れ右して走り去る道中、柱に足の小指をぶつけてふらついていたがそのままヨタヨタと走って夜の闇へと消えていった……。




「……。」




『成実が卑猥なこと考えるから悪いんじゃッ!!///成実とらぶらぶしたいとか、「四六時中考えてるわけない」じゃろーー!!//////』




『四六時中考えてるわけない』って……たまに考えてるんじゃん。




「神様の方が…………、まあいっか///」




成美も神社を後にした。

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