違うところ
『メシうま』とは……
飯が美味いことである……ッ!
一仕事終えた後や、ひとっ風呂浴びた後だったり、親しい友人や恋人と囲む食卓は飯が美味い……というのが通説である。
こじんまりとした神社のまたこじんまりとした境内で、1人のしがないOL、榊成実と自称神様は今日も夜な夜なお供えで人知れず『メシうま』に興じるのであった……。
今日も今日とてとっくの昔に太陽が沈み黄色い月が登る頃、こじんまりとした神社の境内にしがない1人のOL、榊成実が訪れた。
「OLさん、今日もお会いできましたね♪」
階段を登りきった場所で巫女……前に自称神様が今まで見たことないと言った方の栗色の髪の巫女、自称神様の言葉を借りると『巫女もどき』に待ち伏せされていた。
「あ…………、はい。」
巫女もどきに手を引かれお賽銭箱の前の低い段差に並んで腰を下ろした。
「あの……、OLさんって、いつもここに何をしにきているんですか?」
巫女もどきは上目遣いで問いかけてきた。
そりゃあ年越しでもないのに夜の神社に1人で通い詰めてたら気にもなるかと思い、成実は適当に誤魔化すことにした。
「神社に来たら、そりゃお願い事……じゃないですか?」
「OLさんはどんなお願いごとが?」
「おお……、踏み込んできますね……!?」
「願い事をきくのもお仕事ですから♪」
巫女もどきが口元を手で隠して上品に微笑む仕草は、どこか既視感のあるものだった。
「巫女さんってそんなこともするんですね……。」
巫女もどきはキョトンと首を傾げていた。
……こっちは自称神様の証言で本物の巫女じゃないことは知っているのだが、それにしてもこの巫女もどきは一体何者なのだろうか?
「……まあ、ここに来る方なんて内容は決まっていますよね。」
黙っていると、巫女もどきは勝手に話を進めてうんうんと納得したように深く頷いていた。
「いやっ、恋とかじゃありませんからね!?」
「良いですよ良いですよ、隠さなくたって。とっても俗で、人間らしくて私は好きですよ♪」
「まるで本物の神様みたいなこと言うんですね……。」
「 」
ふと見た巫女もどきの表情が一瞬固まったのが、成実には妙に印象に残った。
「巫女さんって、もしかして本物の神様だったり……?」
成実は巫女もどきの正体を探るべく、ちょっと探りを入れてみることにした。
「そう見えます?」
巫女もどきは平然と笑ってのけたが、その笑顔の向こうに『これ以上詮索するな』という無言の怒気を感じたので成実は詮索を断念した。
「……なわけないですよね〜!?、はは……。」
「……、」
巫女もどきの表情が今度は露骨に不機嫌になった。
「……あ!?すみません、巫女さんだって聖職者なのに
「OLさんは、」
成実の謝罪の言葉をかき消すように、お腹に力の入った声が割り込んだ。
「ひゃいっ!?」
「『神様』ってどんな存在だと思いますか?」
「ええっと……、」
「私は、神様だって案外『俗』な存在だと思うんです。」
成美が巫女もどきの笑顔に気圧されていると、巫女もどきは続けた。
「『俗』……ですか。」
成実は巫女もどきに圧倒されて、ただ相槌を打つ他なかった。
「はい♪なでなでされたら嬉しいし、ご飯だって美味しいと幸せだし、失礼なこと言われたら怒ります……!」
巫女もどきは成実の方を向くと、わざとらしくプクッとほっぺを膨らませてみせた。
「……ね♪」
「……。」
自称神様のこれまでの言動が大量に成実の頭の中を流れていった。
「……ですね♪」
成実は本心で同意した。
「そう考えると、神様と人間って……ほとんどおんなじだと思いませんか?」
「確かに……?」
またまた自称神様の言動が成実の頭の中を流れていった。
「じゃあ、神様と人間の違いってなんでしょう?……はいっ!OLさん!」
「ええっ!?私ですか……!?」
あんまりにも唐突に話を振られて頭が回らない。
「〜♪」
そんな成実に構わず、巫女もどきは袖をゆらゆらして成実の回答を楽しみに待っていた。
「う〜ん……、」
神話に出てくる『神』であれば、海を割ったり復活したりと全能なイメージがあるものだが、成実はこれまでさんざん自称神様の俗っぷりを見てきたので『神様』が神聖なものとは思えなくなっていた。
「う〜ん…………、」
うんうん唸ったところで思い浮かぶのは自称神様がコロコロと変える豊かな表情や、初めて食べるお供物に目を輝かせるところだったり、いつかエア二人羽織をしてトンチキなことになった記憶ばっかりだ。
そんなこんなで成実は、
「…………『ない』ですね。」
お手上げ、と言わんばかりに両手をあげて首を横に振った。
「『ない』……。そうですかそうですか♪」
色々考えた末に最後は匙を投げたのに、巫女もどきはなんだかとってもご満悦だった。
「私、とっても嬉しいのでOLさんに良いことを教えてあげます♪」
「『良いこと』……?」
「むか〜しむかし、そのまた更に昔から、人ってけっこう神様になるし、神様も人になるんですよ♪」
「神話のお話ですか……?」
「『神話』なんてたいそうなものじゃなくても、『神様』は案外そこら辺に転がってたりするかもしれませんね♪」
「は、はあ……。」
「例えばこの境内にも……。」
巫女もどきがチラッとお賽銭箱の方を見たことにドキッと来て息を呑んだ。
「……それともう一つ。」
「何ですか。」
「神様は優しい人と頑張る人が大好きなんです♪」
「よく言いますよね。」
「だから、神様は優しい人と頑張ってる人が大好きなんです♪」
巫女もどきは発言を繰り返すと、意味深にお賽銭箱を横目で見やって口角を上げた。
「……!?」
成実は自称神様のことがバレているのかもしれないと思い、唾を飲み込んだ。
「……あ。」
その拍子にガサっと鳴ったコンビニのレジ袋に意識が向いた。
レジ袋の中からおもむろに肉まんを一つ取り出し巫女もどきに差し出した。
「食べます?」
「……。」
「神様じゃなくたって、優しい人と頑張ってる人は好きでしょう?」
巫女もどきはホワホワと湯気を昇らせる肉まんをじいっと見つめると一瞬頬が緩んだが、すぐにちょっと寂しそうな表情に変わった。
「受け取れません……。」
「あ、もしかしてお仕事ちゅ
「それは頑張ってる人の分ですから♪」
何がどうしてというわけではないが、巫女もどきの笑顔が成実には精度の低い模造品のように感じられた。
「それじゃあ私はそろそろ行きますね。……またお会いしましょう、『優しい』OLさん♪」
巫女もどきは慌ただしい足取りで神社の奥へと走り去っていった……。
「『優しい』OLさん、かぁ……。」
「なぁ〜〜にが『優しいOLさんっ↑』じゃ!」
「お"ぅ……ッ!?」
背後から聞き慣れた不機嫌な声がしたかと思うと、幽霊にでも取り憑かれたかのような両肩の重さに襲われた。
「神様、重い……。」
「いいから早く肉まんを寄越さんか……ッ!」
「見てたなら来れば良かったのに。」
「いや、それはなんだか……悪い気がして……///」
どうやら自称神様なりに気を遣って出てこなかったようだ。
「はいはい、ご所望の肉まんですよっと。」
成実は肉まんをお賽銭箱の上に置いた。
「お〜!待っておったぞ♪」
自称神様は躊躇なく肉まんをパカっと2つに割ると、フーフーと息を吹きかけ冷ましながら美味しそうに肉まんを頬張った。
「なんか、食べ慣れてない……?」
「饅頭はお供えの定番じゃからな♪嫌いな神様はおらんじゃろ♪」
言葉の合間合間に肉まんにがっつく自称神様を見て、成実はさっきまでの巫女もどきとの会話を思い出した。
神様と人間の違いなんて『ない』。
適当に言ってしまった答えだが、割とそうなのかもしれないと思う成実であった。




