心は死ねど、飯うまし
『メシうま』とは……
飯が美味いことである……ッ!
一仕事終えた後や、ひとっ風呂浴びた後だったり、親しい友人や恋人と囲む食卓は飯が美味い……というのが通説である。
こじんまりとした神社のまたこじんまりとした境内で、1人のしがないOL、榊成実と自称神様は今日も夜な夜なお供えで人知れず『メシうま』に興じるのであった……。
『メシうま』とは……
飯が美味いことである……ッ!
一仕事終えた後や、ひとっ風呂浴びた後だったり、親しい友人や恋人と囲む食卓は飯が美味い……というのが通説である。
「はむっ……、」
何にせよ、死後数日が経過したお魚のように淀んだ眼差しでデスクのパソコンとサドンデスの睨めっこに興じ、くるみ割り人形のように淡々とコンビニ飯を咀嚼するOL、改め私、榊成実とは縁遠い言葉である。
「……お。」
特に何を見るという訳でもなくスマホの画面を指の腹で擦っていると、新作の大人気家庭用ゲーム機、Shuwatchの広告が流れてきた。
「Shuwatch……。」
大学を出てすぐに就職し数年経った今、思えば会社勤めをしてからろくにゲームの一つも嗜んでこなかった。
なんなら、本やアイドルみたいな趣味と呼べるものは何一つ……。
「……買ってみるか。」
広告のリンクに触れると、どうやらShuwatchは抽選販売のようで、誰でも買えるという代物ではないようだ。
「はは……っ。」
『お前には1人寂しくゲームに興じる権利すらありません』と言われたようで、乾いた笑いが出る。
自分と同じ若者でも、もう少しピュアで潤った心の持ち主であればワクワクしたり期待するんだろうなと思うと、自分の心はカピカピに乾ききってとうの昔に死んでいたという事実を痛感した。
お日様が傾いた頃。
終業のチャイムが鳴り、パソコンとの睨めっこにスパートをかけ、今日の決着をつける。
「ぬぁ"ぁ"……!」
10年もののプラモの様に固まった肩や腕を無理やり回し、イヤホンを耳にはめて職場を出る。
点滴から今日一日を生きる栄養を摂取する病人の様に、イヤホンから絞り出される小粋な音楽なBGMから帰り道を歩ききるだけの活力を貰い、重い身体を歩かせた。
自宅を目指して人通りの多い大通りから何本か裏道を歩いていると、片方の耳からポロリとイヤホンが落っこちてアスファルトの上を転がり、跳ねた。
「あ……。」
どこかで聞いた、転がるおにぎりを走って追いかけるお爺さんのような気力はとても無いのでイヤホンが転がる先を目で追うと、やがてイヤホンは道端の階段にぶつかって止まった。
「よし、壊れてはなさそう。……にしてもよく転がるなあこれ。」
イヤホンを拾い上げ再び耳にはめようと視線が高くなると、目の前の一段一段がちょっと高い古めの石造りの階段が視界に入り、なんとなしに階段の上を見上げる。
この階段を登った先にはこじんまりとした神社があったっけ……と記憶を巡らせていると、ふとお昼の広告を思い出した。
「私に1人寂しくゲームに興じる権利があるかどうか……試してみるか。」
イヤホンが荒ぶったのも何かの縁だろうと思い、成実は身体の衰えを痛感しながら膝を手の平で押し込んで階段を上りきった。
こじんまりとした境内に入り、お賽銭箱の前に立って100円を投げ込む。
現代人なら嫌いな人はいない軽快な金属音を全身に浴び、両手で乾いた破裂音を奏で合掌する。
「…………。」
今の心は正に明鏡止水。目を閉じて深く息を吸い込み、淀みない心で
「当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ……ッ!」
ハエのように手のひらを擦り合わせお坊さんの様な超低音で当たれと繰り返し呟いた。
因みに『当たれ』と言っているのはShuwatchの抽選販売である。
Shuwatchは人気すぎる故に店頭では買えず、ネットでの抽選販売が主な入手手段となっている。
まあとどのつまり、験担ぎ……神頼みをしにわざわざ神社まで足を運んでみたというわけだ。
「……よし!なんか当たる気がする♪」
角質が無くなりそうなほど擦り合わせても全く温まらない指先をコートのポッケに突っ込むと、お賽銭箱に背を向けて颯爽と帰路についた。
それから数日後、企業ホームページでShuwatchの当落発表が行われ成実は見事に爆死した。
「はぁ……。」
職場からの帰り道、気がつけばこの前の神社に足が向かっていた。
「文句の一つでも言ってやるか……。」
一段一段がちょっと高い古めの石造りの階段を登りきり、お賽銭箱が見えた頃、
「神様の、バカやろーーーーッ!!!」
お賽銭箱の前にいた2人組の片方が、ぶら下がっている赤と白の縄を思いのままに揺さぶり絶叫した。
「いえーーい!神様、ありがとーーーーッ!!!」
隣にいたもう1人も遅れて縄を掴むと揺さぶり絶叫した。
「発売日オールだかんな!?」
「ソフト古いのしかないんだけど……。」
「うっせえ!コントローラー酷使させろい!」
「はいはい、届いたらね。」
会話に出てきた『ソフト』や『コントローラー』という単語から察するに、どうやらあの2人組もShuwatchの抽選販売に応募して片方は当選、もう片方は落選した様だ。
呆気に取られて立ち止まっていると、2人は成実の横を歩いて神社から出て行った。
2人組の声が遠ざかると、成実は再び歩き出し、お賽銭箱の前で立ち止まった。
「言いたいこと、先に言われちゃったな……。」
さっきの人みたいに『バカやろーーッ!」って叫んでやろうと思ってここまで来たのだが、罵倒と感謝を同時にされる神様を想像すると、何だか相手方に無茶な要望をされた挙句クレーム対応させられる自分の姿に重なり、文句を言う気がすっかり失せてしまった。
「まあ、その……。」
特に言いたいこともなくなってしまいどうしたものかと腕を組んで唸った末に、
「なんというか……お疲れ様です。」
気がつけばいるかどうかもわからない神様に労いの言葉をかけていた。
「……なんて。」
当然誰からの反応があるわけでもなく、少しの沈黙を経てさあ帰ろうかとお賽銭箱に背を向ける。
「まったくじゃ!」
「ひゃわぁぁあッ!?」
誰もいなかったはずの境内、ましてや目と鼻の先の距離感で声をかけられたので思わず声が裏返る。
「あっはっは♪『ひゃわぁぁあッ!?』って///」
目の前でお腹を抱え涙目で大爆笑する女性は、巫女さん……というにはちょっと質素な白装束を纏っていた。
「な……ッ!なんなんですかいきなり!///」
いつからいたとか、聞かれてたとかいう疑問を持つよりも笑われたことに苛立ち、突っかかる。
「『いきなり?』貴様、面白いこと言うのう……///私はずうっとここにおったのに///」
女性は笑いすぎて頰を赤く染め息を切らして言葉をなんとか紡いでいる様子だった。
「ずっと……?っていうか、神様労ってんのに巫女さんが笑わないでください!」
「私巫女さんじゃないもーん♪」
女性は隙間風みたいなヘッタクソな口笛を吹いて数歩歩くと、お賽銭箱にどっかりと飛び乗り足をブラブラと遊ばせた。
「な、なんて不敬な……!?」
神道の知識なんてからっきしな成実でも、お賽銭箱の上に座っちゃダメなことくらいは知っていた。
この不敬極まりない所業から察するに、彼女は本当に巫女さんではないのだろう。考えられるのはコスプレか不審者か……、
「あ!今、私が何者か考えておるな?」
女性はニマニマと笑ってこちらを見下ろした。
なんなんだこの精神年齢メスガキのエセ巫女は……。
「気になるか?それとも見惚れてしまったか?……しょうがないのう〜。私、元村一番の美人じゃし♪」
放り出している脚が自分のよりもスラッとしているだとか、姿勢良くしたら身長負けてそうとか、ショートヘアーが見事な烏の濡れ羽色だとか、胸はちょっと勝ってるなとか色々思う所があったが……、
「私に恋してもうぃ……、
とりあえず無性に腹が立ったので、成実はこの減らず口を左右に引っ張って黙らせることにした。
「いひゃいいひゃいいひゃい!?」
しばらくモチモチのほっぺを引っ張って黙らせると、女性改めエセ巫女は夜中のひまわりの様にお賽銭箱の上で背中を丸め、しおらしく座り直した。
「はぁ……。色々言いたいことはあるけど……、
「あり『ます』けど。」
「ほっぺ千切ってやろうか?」
「どうぞ続けてくださいっ!」
エセ巫女は某絵画の様に自分のほっぺを両手で挟んで青ざめた。
「まずはお賽銭箱から降りるっ!」
「私の特等席
演奏前の指揮者の様に無言でバッと両手を構える成実を見て、エセ巫女は身の危険を感じすぐさまお賽銭箱から飛び降りた。
「ったく。関係者じゃなくたって、お賽銭箱の上に座っちゃダメな事くらいわかってるでしょ……。」
「関係者なんじゃが。」
「関係者ぁ?」
初めこそ服装に騙されはしたが、今までの言動を鑑みると、成実にはどう考えても神様に敬意を持っている人間とは思えなかった。
「っていうか神様本人なんじゃけど……。」
エセ巫女は俯き両手の人差し指をツンツンと突き合わせていた。
「ゴッド……?」
「ごっど。」
「海割ったり復活するヤツ?」
「何それ怖……。」
「神ではない……っと。」
「まあそうなんじゃけど。」
「さっき自分で神って言ってなかった……?」
「『神様』とは言ったが『神』とは言ってない。」
「とんち?」
「なんと言えばいいかのう……。」
エセ巫女改め自称神様は、なんとも困ったという様子で腕を組んで唸った。
「……難しいなら言わなくていいけど、とりあえずオカルト的な存在って事でOK?」
待っていると長くなると思い、成実は自称神様の存在を曖昧なものとして感受することにした。
「おーけー。」
自称神様は頭の上に両手で大きく丸を作った。
……こんな俗な神様がいてたまるか。
成実は喉まで出ていた言葉を飲み込み、こいつは地縛霊みたいなものだと自分を納得させ、これ以上関わり合いになるのはめんどくさくなりそうなので自称神様に別れを告げさっさと帰ることにした。
この際、なんでバッチリ見えて触れるのかとか気にしない。
「それじゃあ……、
成実が別れを告げようとすると、自称神様はいつの間にか視界から消えていた。
「……あれ?」
やっぱり幻でも見ていたのかと胸に溜まっていた息をストンと吐き出すと、足元にしゃがんでいる自称神様の姿を見つけた。
「……なに、してるの?」
「はっ!?///」
自称神様は慌てて飛び退くと、お賽銭箱の後ろに引っ込んで赤くなった顔だけ覗かせた。
「な、なんだっていいじゃろう!?……決して、その袋からチラチラ見えているものが気になるとか、美味しそうとか……!そーゆーのじゃないからなッ!?///」
自称神様はものの一瞬もレジ袋から目を逸らさずに弁明した。
……ちょっと可愛いと思ったけど口に出したら調子に乗りそうだと思ったので、成実はこの気持ちを胸の奥にしまっておくことにした。
「ただのコンビニ飯も買えないくらい貧しいわけ?」
「な……っ!?そ、そんなことないぞ!野菜とか甘酒とか鯛とか、最近なら両手で持てぬ程の燻製肉なんかも供えられているからのう!」
「確かにお供えっぽいラインナップ……。」
成実の頭にはお中元のオールスターが鎮座していた。
「『っぽい』んじゃなくてお供えなんじゃ!」
「ふ〜ん?」
プリプリ怒ってムキになる自称神様のことが面白くなったので、成実はちょっと揶揄って見ることにした。
「な……、なんじゃその気持ち悪い顔は……!?」
「い〜や?そんなに大層なお供え物を奉納されてる神様にコンビニ飯は不敬だったかな〜って。」
レジ袋から魚肉ソーセージを出し自称神様のお顔の前に持っていき、ペンが曲がる錯視を実践する様にクニャクニャと揺らしてみる。
「そ……、そう……!だな。……そんな得体の……知れ……な……ごくり。」
今、唾飲んだな。
「……もの!……ぬぅぅ!」
自称神様は目の前で踊る魚肉ソーセージに吸い込まれる目を、ギュッとつぶって堪えていた。
……なんだろう、この胸の内から込み上げてくるようなゾワゾワした感情は。
「お、お…………、おい……!し、そ……ッ、とか!興味……、ぬぅん!ある……っ、とかッ!」
自称神様は両手をギュッと握り、かなり極限といった様子で堪えていた。
ここまで必死に堪える自称神様を見て、成実は胸の内に湧き上がるものがここ最近の社畜生活で忘れていた『愉しさ』であることを思い出した。
「……っていうかなんて顔しておる!?」
「へ?」
私は自称神様に指摘され、自分の頬がだらしなく緩みきり涎を溢しそうになっていたことに気づいた。
「……失礼。」
「まったくじゃ……!」
自称神様はほっぺを目いっぱい膨らませて怒っていた。
流石にちょっと遊びすぎてしまったかと反省したのと、あれだけ興味津々だった魚肉ソーセージをあげてみたらどんなリアクションをするのか気になった成実は、
「お詫びにこれあげる。」
「すまん、受け取れぬ……。」
自称神様に魚肉ソーセージを手渡そうと差し出したが、意外にも自称神様はこれを拒んだ。
「……から、そこ置いてくれるか?」
と思ったら自称神様はお賽銭箱の隅っこを指差した。
「もしかして、お供えしないと受け取れないとか……?」
「……うむ。」
自称神様はちょっと寂しそうに俯いて答えた。
手渡しができないということは、食べ物を分け合ったり食べさせ合ったりもできないのだろう。
そう思うと、自称神様の寂しさがちょっとわかった気がしたが、この話を掘り下げても空気が重くなってしまうので……、
「手から食べもらうのも無理かぁ……。」
成実は冗談めかすことにした。
「家畜じゃないんじゃぞっ!?」
「ごめんごめん♪」
成実は自称神様がさっきまでの調子に戻ったことに安堵し、無自覚に声がちょっとだけ高くなった。
「……。」
「どうしたの?」
突然自称神様が惚けてしまったので、少し心配になって声をかける。
「……な、なんでもないわっ!///それより、早くお供えじゃ!」
「はいはい……。」
成実が賽銭箱の隅っこに魚肉ソーセージを1本置いてみると、自称神様はニッコニコして魚肉ソーセージを掴み上げ……
「……は?」
思わず腑抜けた声が漏れた。
今、確かに成実の目の前で自称神様は魚肉ソーセージを掴み上げた。
当然、自称神様は魚肉ソーセージを手に持っている。
……が、お賽銭箱の上に魚肉ソーセージは残っている。置いたのは『1本だけ』なのに。
「〜♪」
自称神様は満面の笑みで魚肉ソーセージに齧りつこうとしたがビニールの包装に阻まれた。
側から見たら面白い光景かもしれないがが、もうそれどころじゃない。
自称神様の手に握られた魚肉ソーセージと、お賽銭箱の隅っこに置かれた魚肉ソーセージを何度も、何度も見て確認をするが、
…………どう見ても『2本』ある。
開いた口が塞がらなかった。
「これどうやって食べ……おーい?」
魚肉ソーセージにありつけず助けを求めてきた自称神様に目の前でブンブン手を振られて、成実はようやく我に帰った。
「……ああ、お供え初めてじゃったか。」
成実はぎこちなく首を縦に振ることしかできなかった。
「お供えのこと教えたら、これの食べ方教えてくれるか……?」
「教えるっ!」
詰まっていた喉から出た声が大きくて自称神様は小動物みたいにキュッと肩を窄めた。
それから自称神様の説明を聞いた限りでは、お供えの仕様はざっくりと以下にまとめられた。
一つ、お供えは奉納されないと受け取れないので手渡しは不可。自称神様からこっちへの手渡しも不可。
二つ、自称神様が食べているのはお供えの霊魂(もう死んでいると思うのだが……)の様なもので、自称神様サイドが食べても供えられた食品は無くならない。ただし再利用不可。
三つ、自称神様が食べてる間に供えられた食品を齧られたりするとその時点で没収。ネズミは万死。
四つ、自称神様が食べ終わった食品は食べても大丈夫。
「よし教えたぞっ!これの食べ方を教えるが良い!」
自称神様が袖を摘んで揺さぶり催促してきたので、成実は約束通り魚肉ソーセージの食べ方を教えることにした。
「はいはい。じゃあまず、ここにペロっと出てるところがあるからそれを摘む。」
「ほう、」
「それをクルッと一周。」
「ほうほう……!」
説明した通りにビニールを剥いて目を輝かせる自称神様に、無性に母性を感じたのは内緒である。
「んで、先っちょを引っ張ると取れる。」
「ほぉ……っ!///」
この自称神様、いちいち良い反応するなぁ……。
「あとは剥けたところを咥える。」
「よ〜し、咥え…………、
口を大きく開けて魚肉ソーセージを頬張ろうとしたところで自称神様は電池でも切れたかのようにピタリと固まっってしまった。
「どうしたの?」
「…………/////////」
自称神様の手は魚肉ソーセージの先が踊り狂うほど震え、顔も魚肉ソーセージに引けをとらない鮮やかなピンク色に染まっていた。
「なんじゃ、その……///」
「大丈夫大丈夫!ただのお魚のお肉の棒だから♪」
「もうソレにしか見えないではないかぁぁあッ!!//////」
「アッハッハッハ//////」
自称神様は恥ずかしがっている所を見せまいと、ガツガツと豪快に魚肉ソーセージを食べ進めていった。
「くそっ!美味い……!?」
「そんなにがっつかなくても逃げないって。」
「がっつくとか言うなッ!?///」
「アッハッハッハッハ/////////」
お腹を抱え転げ回って大爆笑しひぃひぃ言ってる私に見守られながら自称神様は魚肉ソーセージを完食すると、ビニールのゴミはどこへともなく消えていた。
こんなに笑ったのはいつ以来だろうか……。
「はぁ……、はぁ……///」
「まったく、人の無知を笑いよって……。」
「はぁ〜、満足。」
お賽銭箱の上に置かれた魚肉ソーセージを回収し、ビニールを剥きながらお賽銭箱の前のちょっと低い段差に腰を下ろす。
長風呂でもしたかの様に火照った顔をパタパタ手で仰いで冷ましながら魚肉ソーセージを齧っていると、自称神様が無言で肩をくっつけてきた。
「どうじゃ?美味いじゃろう〜?」
自称神様が肘で横っ腹を小突いてきた。
「……『メシうま』、だね♪っていうか、神様が得意になるのは違うでしょ。」
「まあまあ、良いではないか良いではないか♪」
魚肉ソーセージのお供えがお気に召したのか、なんだかんだ自称神様は上機嫌だった。
「ところで……その、『メシうま』ってなんじゃ?」
「飯が美味いって意味だよ。一仕事終えた後と
「そうか!じゃあ私も『メシうま』じゃな♪」
途中で言葉を遮って満面の笑みを向ける自称神様を見ていたら、成実はなんだか『まあ良いか』と思えてきて細かい説明をする気が失せた。
「そーゆーこと☆」
真っ暗な境内に冷たい風が吹いた。
「うぅ寒……ッ!?」
成実はブルっと震えて縮こまると、魚肉ソーセージをたいらげて立ち上がった。
「今日はもう帰るよ。」
「帰っちゃう……のか?」
自称神様は捨てられた仔犬のような目で成実を見上げた。
「う"ッ!?……また来るって!」
「本当か……!?」
コロコロと表情を変え目を輝かせる自称神様の眼差しを見ると、成実の胸が高鳴った。
「また明日ね……!///」
「……うむ!また『メシうま』しような〜!」
成実は乱暴に肘から先だけで手を振ると、足早に境内を後にした。
「『また明日』、か……。」
自称神様は白装束の襟を緩く握って口元を緩めた。
「いつ以来じゃろうな、そんな嬉しい言葉をかけられたのは……///」
これは、都会の片隅に慎ましく構える神社に祀られる自称『神様』と、1人のしがないOLが『メシうま』する物語……。
成実宅。
成実はベッドの上で天井を仰ぎ、2人きりの境内でのやりとりを反芻していた。
「いつ以来だろうなぁ……、あんなに笑ったの。」
成実の頭には自称神様の満面の笑顔がこびりついていた。
「『メシうま』、か……♪明日は何を持って行こうかな……。」
成実はベッドの上で明日のお供えに想いを馳せると、静かに目を閉じた。
これは、1人の人間の死んだ心に、一柱の神様が『メシうま』で命を吹き込む物語……。




