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【BL】龍が降らした雨のあと。〜地下帝国で始まる奇妙な芸能生活〜  作者: 稚魚劇場108
第四章 龍ノ國[同性愛描写・残酷描写あり]
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第8話 芸能の街・河原地区

 石段を照らす提灯の明かり、街のネオンに溶け込む桜並木……本流から枝分かれした水路を進んだ先には、光に満ちた世界が広がっていた。


「ここが、芸能の街か……」

 船を降りた翠雨は緊張した面持ちでロボ塚くんを抱きしめている。係留を終えた情から質問が飛んできた。

「翠雨くんは、今いくつや?」

「……十二歳になる年です」

「そうか、立派な大人やないか……遊びすぎるなよ、ここは毒が多い街やからな」

 情はそれだけ言い残すと、翠雨の背中をポンと叩いて繁華街の雑踏へと消えていった。 翠雨は遠ざかる彼の背中に深く頭を下げている。


 情の後を追い、階段を駆け上がると【芸能の街・河原地区】の賑わいが一気に押し寄せてきた。


 道の両側に立ち並んでいるのは、怪しい名前の宿屋、それから音楽が漏れ出る奇妙な店の数々だった。

 見上げたアーケードには【親不孝ロード】と書かれている。


 広場では面を被った男たちがダンスバトルに興じていた。路地裏では和楽器の生演奏が行われている。


 【親不孝ロード】の脇道を進んでいくと、【芸能横丁】へと辿り着いた。


 商店の店先には、様々な表情をした面や、絵付けされた和楽器が所狭しと並べられている。

 ショーウィンドウ越しに見えたのは、女性よりも艶やかに着飾った美しい少年たちの姿であった。役者の卵が商売道具を買い込んでいるのだろう。


 人混みを縫うように歩く翠雨の目に「ご自由にどうぞ」と書かれた籠が留まった。

 入っていたのは、古びた肩掛けのカバンだ。翠雨はそれを手に取り、着物の上から斜めに掛けた。

 ロボ塚くんは自らカバンの中に入ると、ひょこっと顔を出した。瞳をキラキラと輝かせて、この街を眺めている。


 近くの楽器店では、少年たちが店先のショーケース越しに、一本の琵琶(びわ)をじっと見つめていた。

奏王(そおう)モデルの琵琶だって……かっこいいなぁ。おれもこれさえあれば……」

「馬鹿、高すぎて一生買えねえよ。俺たちみたいな底辺芸人には夢のまた夢だ」

 少年たちの自嘲気味な笑い声が聞こえてくる。


 その直後、街の空気が一変した。

 遠くから人々の足音が近づいてきたのだ。


「【奏王(そおう)】の【天劇(てんげき)】が始まるぞ!……急げ!」


 さっきまでダンスバトルをしていた者も、楽器を弾いていた者も、すべてを放り出して一つの方向へ走り出した。彼らの会話が耳に入ってくる。

「奏王の天劇って急に始まるよな……もっと早くから予定を知りたいのに」

「仕方ないよ、彼は心に波がある人だからさ」

 翠雨は近くを走る男に問いかけた。

「すみません、奏王さんって……何者なんですか?」

 男は足を止めずに叫んだ。

「なんで知らないんだよ、河原地区出身の大スターだよ」


 翠雨も群衆に流されるまま進んでいくと、目の前に巨大な舞台が現れた。四本の太い柱が豪華絢爛な屋根を支える檜の舞台だ。

 神社の境内に建設されており、まるで神への捧げ物を行うような位置にあった。


 舞台に佇んでいるのは、哀しげな面を被り、暗色の着物を纏った、背の高い男性だった。天劇関係者から群衆に向けて、次々とビラが配られていく。


【 奏王天劇(そおうてんげき) 】

【 題:(きょう) 】


 翠雨はカバンを握りしめ、舞台の上に立つ「奏王」の姿を凝視していた。


 彼が抱えた琵琶の弦が一本、鈍く弾かれた。


 


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