表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/29

第1話 君はアイドル(挿絵あり)

 人口約五万人の離島,左遷ヶ島(させがしま)

 自然豊かなこの島には、高貴な名を持つ少年が暮らしていた。

 彼の名札は、今日も大きく傾いたままだ。


【 左遷ヶ島(させがしま)小学校 6年A組8番 】


【 王階(きみしな) 翠雨(すいう) 】



 山の中腹にある古びた寺、【永伝寺(えいでんじ)】の境内。

 本堂に施された精巧な龍の彫刻は、沈みゆく夕日に照らされ、黄金色に輝いて見えた。


 翠雨は、石段の隅に捨てられていたタンポポを優しく拾い上げた。

 足元に咲く島の花々とは、見た目が大きく異なっている。

「よそから来た子だっちゃ……

増えないように、抜かれてしまったんだね」

 彼は島の方言で、外来種のタンポポに声をかけている。


 鳥の鳴き声に顔を上げると、朱鷺(とき)の群れが夕焼け空へと消えていくところだった。

 大陸タンポポについた泥を丁寧に払う。


「おれの家においで。一緒に帰ろう」


 翠雨はこの花をランドセルのサイドポケットへと挟み込んだ。



 チリリン、チリリン! 

 錆びたベルの音が静寂を破った。1台の自転車が目の前の山道を降っていく。


「お、お前さん!!! もしかして……王階(きみしな) 翠雨(すいう)くんか?!」


 息を切らして自転車を停めたのは、見知らぬお年寄りであった。興奮した様子で、翠雨の顔を覗き込んでいる。

「やっぱりそうだっちゃ〜! 孫から話を聞いとるよ。カラオケ大会で優勝した美少年……いやぁ、髪型だけが惜しいなぁ。【チャチャチャ坊や】にしか見えんよ」


 翠雨の髪型は、一房(ひとふさ)の前髪だけを残し、それ以外は坊主に刈り上げられていた。前髪の毛先は眉上で切り揃えられている状態だ。


(@チャチャチャ坊やステッカー)

挿絵(By みてみん)


「あの……お爺さん、 

【チャチャチャ坊や】って……何?」


 しかし、顔立ちは誰もが振り返るほどの並外れた美形であった。弱りきった蝶も、翠雨の周りから離れようとはしない。

 お年寄りは確信したように頷く。

「アイドルになったらどうや? ご近所さんも同じことを言うとったよ」

「……頼むから、おれの質問に答えてくれ!」


 軽トラックがふたりのすぐ横で一時停止をした。荷台に乗っている、柴犬「サクラ」と雑種の「ンボ」もご機嫌だ。

「この爺さんの言う通りや、翠雨は早く芸能人になるべきなんだよ……ちなみに【チャチャチャ坊や】っていうのは【溶怪会(ようかいかい)】の公式キャラクターのことやで。翠雨と瓜二つだっちゃ」

「……この島にプライバシーというものはないのか?」


 笑顔の運転手が、手を降り去っていく。彼は最後に振り返り、空を指差した。

「暗くなる前に帰れよ。【溶怪会(よいかいかい)】には黒い噂があるからなぁ」

 お年寄りもしきりに頷きながら、再び自転車を漕ぎ出した。


 翠雨は彼らの背中を見送りながら、小さくため息をつく。

「……黒い噂って何? 子供に言えないような事なのか?」

 指先には弱りきった一匹の蝶が止まっていた。翠雨は蝶に向かって優しく語りかける。


「【チャチャチャ坊や】は、おれとソックリな【溶怪会(ようかいかい)】の公式キャラクター。【溶怪会】は、何をしているのかよく分からない危ない団体」

 蝶は羽を震わせるだけで、翠雨から離れようとはしなかった。


「ま〜た……

トラブルに巻き込まれる予感がするっちゃ」


 中性的で美しい顔立ち、透き通った声に青みがかった大きな瞳。

 翠雨を知る左遷ヶ島(させがしま)の人間は、みな口を揃えてある説を唱えた。

 彼はきっと__


『芸能界の頂点に君臨するべき人物である』と……。


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ