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第69話:秘密のトンネル

 道中の寄り道。

 楓が案内したのは、地図にも載っていない「秘密の場所」でした。

 北海道が歩んできた歴史と、今もそこに息づく小さな命。

 

 少し真面目な、でも楓らしい寄り道の物語です。


 車を止めてもらい、俺はとある施設へと入っていった。



「実はこの近くに、コウモリが見られるポイントがあるんです。

 さっちゃんのお母さんも、みんなで行きましょうよ」



「コウモリって……血を吸うんでしょ? こわい……」



 さっちゃんが本気で怯えている。俺は苦笑しながら説明した。



「吸血コウモリなんてここにはいないよ。

 昆虫や木の実を食べる種類だから、鳥と変わらないって」



 俺は施設の方に許可を取ろうと話を切り出した。

 だが、窓口の職員さんは首を傾げる。



「いやぁ、そんな話は聞いたことないなぁ……」



 あからさまにはぐらかされる。

 俺は少し声を落として、核心を突いた。



「以前、小平教授と見学させてもらったことがあるんです。

 やっぱり、イタズラをしたり、勝手に持ち帰ったりする人が多いんですね」



 その言葉を聞いた瞬間、職員さんの目つきが変わった。



「……そこまで知っているのかい」



「ええ。場所もわかっています。

 大切な場所だと知っているので、念のため許可をと思って伺いました」



「そうか、教授の知り合いならいいだろう。案内するよ」



 職員の方はナタを手に取り、道路脇の鬱蒼とした藪を切り拓きながら進んでいく。

 その後ろを、女子二人が不思議そうに付いてくる。



「りん、なんでそんなこと知ってたの?」



「小学生の頃の先生の奥さんが大学の教授でさ。連れてきてもらったことがあるんだ」



「へぇー、そんな知り合いがいるんだ……」



 さっちゃんが感心したように頷く。



「本当は、生態を守るために秘密にしているんだ。

 昔は観光の一つとして案内していた時期もあったんだが、君の言う通り、コウモリを傷つけたり持って帰ったりする不届き者がいて、数が激減してしまったんだよ」



「そんな、ひどい……」


 職員さんの言葉に、ハルちゃんが悲しげに瞳を伏せた。

 藪を掻き分けた先に、コンクリート剥き出しの古いトンネルが姿を現した。



「楓くん、すごいところ知ってるんだねぇ」



 さっちゃんのお母さんも驚きの声を上げる。



「ここは『名羽線めいうせん』の線路跡なんです。

 名寄と羽幌を結んで石炭を運ぶはずだったんですが、炭鉱の閉山で計画が中止され、未完成のまま放置された幻の鉄道ですよ」



「……その知識はすごいな。おじさん、説明するところがないじゃないか」



 職員さんが苦笑いする。

 トンネルの入口付近から中を覗くと、小さな鳴き声と共に、闇の中を何かが飛び交う気配がした。



 ライトで天井を照らすと、そこには無数のコウモリたちが身を寄せ合っていた。


挿絵(By みてみん)


「意外と……可愛いかも」



 さっちゃんが呟く。

 奥に入ろうとする三人を、職員さんが手で制した。



「ここで見るだけにしましょう。

 奥にはフンもありますし、万が一落ちてしまったコウモリがいたら、踏んでしまいますから」



「北海道に、コウモリっていたんだね」


「初めて見たよ」


「おばさんも初めてだわ」



 三人の感動したような顔を見て、俺はホッとした。

 あの時のコウモリたちは、今もちゃんとここで命を紡いでくれていたんだと、胸を撫で下ろす。



「北海道の歴史を調べると、こうした線路跡や貴重な生物が、実はたくさん残っているんだ。

 興味本位で勝手に入ったり、ただのSNSでの拡散は、生態系はもちろん自身の事故にも繋がるからね。

 知識を持って、大切にしてほしいよね。

 ……この後のキャンプも、ルールを守って楽しもうね」



 俺の言葉に、職員さんも満足そうに頷いた。



「なんか……楓すごいね」


 さっちゃんがつぶやく。



「……なんて、ちょっとカッコつけすぎたね。でも、本当にそう思うんだ」



「若いのに随分謙遜するなぁ。真剣に考えないと歴史まで調べてたりしないぞ」



「おばさんも知らない事ばかりで、勉強になったわ」



「こういう風に考えてくれる子たちが、これから先も増えていくとおじさんも嬉しいな」



 俺は照れ隠しに頬をポリポリとかく。



「「「ありがとうございました!」」」



 深々とお礼を言い、俺たちは再び車へと戻る。



 案内できてよかった。

 興奮冷めやらぬ三人の横顔を見ながら、俺は目的地へ向けて、心地よいエンジンの音に耳を傾けた。


 今回のエピソードは、作者の実体験に基づいています。

 

 便利になった現代だからこそ、楓が語った「マナーと知識」の重要性は増している気がします。

 美しい自然を守るために、あえて秘密にする大人の優しさ。

 それを理解できるようになった楓の成長を感じていただければ幸いです。


 寄り道を終え、次はいよいよ朱鞠内湖キャンプ場に到着!

 部員たちが勢揃いして、波乱のレクリエーションが幕を開けます。


 続きが楽しみ!と思っていただけたら、ブクマや評価をいただけると飛び上がって喜びます!


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