第67話:夏休み、波乱のレクリエーション計画
いよいよ一学期が終了し、物語は夏休みへと突入します。
「試される大地」でのレクリエーション、その幕開けをお楽しみください。
今日は一学期の終業式だ。
体育館の蒸し暑い空気の中、校長先生の長い話を聞き流しながら、俺の頭は明日からの夏休みでいっぱいだった。
放課後の教室。
いつものメンバーが、俺の席の周りに集まってきた。
陸上部の皆ちゃん、バレー部の吉川、そして軍師・ムツだ。
「よっしゃー! 明日から夏休みだぜ! お前ら、海行こうぜ、海!」
吉川が机を叩いて盛り上がるが、皆ちゃんが冷静にツッコミを入れる。
「吉川、ここがどこだか忘れてないか? 海に行く手段がないだろ」
「え、公共交通機関を使えば……」
俺が指折り数えてシミュレーションしてみる。
「旭川経由で乗り継いで……おい、片道六時間かかるぞ」
「マジかよ……。じゃあ、峠を越えて車なら?」
「それでも二時間はかかるな。誰かの親が車を出してくれない限り、俺たちだけで行くのは絶望的だ」
「保留だな……」
ムツが短く締めくくり、海計画は一旦お蔵入りとなった。
北海道の広さは、時として少年の野望を無慈悲に打ち砕くのだ。
放課後、吹奏楽局の部室へ向かう。
扉を開けると、そこにはハルちゃんがいた。
一昨日の夜、自分の部屋で倒れ込んできた彼女の感触が蘇り、急に気恥ずかしくなる。
「あ……ハルちゃん。足、大丈夫かい?」
努めて冷静に声をかけると、ハルちゃんは少し顔を赤らめて微笑んだ。
「まだ少し痛むけど、もう大丈夫。あの時は、ありがとね」
「よかった。……その、約束、覚えてる?」
俺が小声で尋ねると、ハルちゃんは真剣な瞳で俺を見つめた。
「うん。……夏休み中に、私、お家にお邪魔してもいいかな?」
「うん、いいよ」
照れくさくて視線を泳がせていると、背後から嵐のような勢いで、オレンジ色のオーラを纏った副局長が飛び込んできた。
「楓、昨日ぶりー!」
さっちゃんである。
「葵、足大丈夫だった?」
「さつき……。お祭りの時は心配かけてごめんね。って、昨日ぶりって何?」
ハルちゃんの声のトーンが、わずかに、しかし確実に下がった。
「あー、昨日の朝ランニングしてたら、キャンプしてる楓に会ったのよ。テントの中で楓のいただいちゃった、ウチ」
「なっ! ……さつき、楓に何したの!?」
ハルちゃんが詰め寄る。その迫力に、俺は慌てて間に入った。
「違うんだ! 俺が朝ごはんを作ってたから、さっちゃんにもお裾分けしただけで……」
「そうだよね、楓だもんね。変なことあるわけないもんね。……でも、さつき、りんの手作りって! ずるい!」
ハルちゃんが頬を膨らませる。
「神社祭の時も、おじいちゃんの家で御馳走になってたし! ずるいずるい!」
「えへへ」
さっちゃんは悪びれもせず笑っている。
「まあ、ハルちゃんも機会があればね……」
俺がなだめようとすると、ハルちゃんが俺の両肩をガシッと掴んだ。
「絶対ね! 約束ね!」
「……は、はい」
その後の全体ミーティング。
事前に顧問の彦根先生と打ち合わせをしていた「重大発表」の時間が来た。
「えー、コンクールに向けてみんな頑張っているから、息抜きも兼ねて夏休みに親睦会を兼ねたキャンプを行いたいと思う」
部室が「おおおっ!」という大歓声に包まれた。
配布されたのは、親の承諾書と参加希望のプリントだ。
「場所は朱鞠内湖だ。女の子も多いし、親御さんの車送迎の協力を得ながらの実施になる」
彦根先生も、生徒以上にウキウキしている。
朱鞠内湖といえば1943年、戦時中に完成した日本最大の人造湖だ。幻の魚・イトウが棲むと言われる神秘の湖に、俺も心の中でガッツポーズをした。
「夜は肝試しに花火だ!」
誰かが叫び、部室のテンションは最高潮に。
持ってくる道具の分担、宿泊の班割り、晩御飯のメニュー。
夏休み初日から、俺たちの「試される大地」の冒険が始まろうとしていた。
……さっちゃんとハルちゃんが、プリントの裏にこっそり『楓と同じ班がいい』と書き込んでいるのを、俺はまだ知らない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
いよいよ夏休み本番。
朱鞠内湖でのキャンプ、一体どんな波乱が待ち受けているのか。
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