第24話:『チャベス号』が呼び寄せる者
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第24話は、伝説の『チャベス号』での初登校。
「笑顔の手榴弾」をフロントに掲げたその姿は、本人の意図に反して周囲を戦慄させます。
そんな中、放課後の駐輪場で遭遇したのは、いかにも「ヤバい」風貌の二人組。
友人たちが震え上がる中、楓が取った行動は、兄から叩き込まれた「完璧なるもてなし」でした。
見た目と礼儀、友情と風評被害が入り乱れる、カオスな放課後をお楽しみください!
今日から、俺の通学の相棒は『チャベス号』だ。
物置の奥で埃を被っていた、昭和の香りが漂う骨董品のような原付。だが、今の俺にはこいつしかいない。俺は意気揚々と跨り、エンジンを蹴り上げた。
走り出してすぐに、俺は猛烈な洗礼を受けることになった。
タイヤが極端に小さいせいか、路面のわずかな凸凹さえもダイレクトに拾ってしまう。砂利道やアスファルトの亀裂に差し掛かるたび、ハンドルが「待ってました」と言わんばかりに左右へ大暴れする。
(おっと、暴れ馬かよ……!)
だが、そこは俺も歴戦の勇者。
兄ちゃんの全速力の投球をノー防具で受け、庭でBB弾の豪雨を浴びながら生き抜いてきた俺だ。この程度の振動、なんてことはない。
肩の力を抜き、ハンドルはそっと添えるだけ。無理に抑え込もうとすれば、逆にバランスを崩して自爆する。猛獣の機嫌を伺うような繊細なライディングテクニックで、暴れるフロントをいなしていく。
ようやく街中に入り、道がスムーズになったところで一息つく。
が、今度は昨日とは違う意味での「視線」が、肌に突き刺さるように痛い。
信号待ちで隣に並んだワンボックスカー。
運転席のおじさんが、窓越しに身を乗り出すようにしてこちらを覗き込んでいる。その目は驚愕に染まっていた。
いや、それも当然だろう。このチャベス号のフロントカウル中央には、直径三十センチはある巨大なステッカーが鎮座しているのだ。
『PRETTY PINEAPPLE』
ポップなフォントとは裏腹に、中央で満面の笑みを浮かべる「手榴弾」。
おまけに車体はガムテープやパテで補修された跡だらけで、完全に「そっち側」の人間が乗る特攻兵器のような風貌をしている。
(……やめろ。そんな不審者を見るような目で見るな。別な意味で警察に捕まりそうだろ。これ、完全に職質案件だぞ……)
命からがら学校に着き、駐輪場に滑り込む。
案の定、そこには吉川とムツが待ち構えていた。俺がバイクを止めるなり、吉川が目を皿のようにして駆け寄ってくる。
「おい竜胆、なんだそのバイク! やべーだろ、その手榴弾! お前、今日からそれで来るのかよ!」
「……事情は察してくれ、吉川。俺だって好きでこれに乗ってるわけじゃないんだ」
吉川は興奮した様子で、チャベス号の周りをぐるぐると回り始めた。
「チャベス……チャベス号か! キーホルダーに書いてあるぞ! 名前まで物騒だな! なあムツ、こいつマジでこれで登校してきたぜ!」
ムツは呆れたように笑い、一方で皆ちゃんは、相変わらずの優しい目で、少し困ったように笑っている。
通りかかる女の子たちからも、「ねえ、あのバイク……手榴弾ついてない?」「竜胆くん、何目指してるの?」と次々に声をかけられてしまう。
普段、女子から話しかけられることなんて滅多にないから嬉しいはずなのに。
その理由が「不気味な遺物」への恐怖と好奇心だという現実が、俺の心をじわじわと削っていく。
今日の放課後は、クラスの連中数人とカラオケに行くことになった。
今日から三日間、学校の床のワックスがけ作業が入るため、部活動は強制的に三連休なのだ。
カラオケボックスの薄暗い部屋に集まった面々を見て、俺は不意にドキリとした。
男子連中はいつも通りだが、女子たちは違った。
うちの制服はブレザーだが、今は夏服の期間。
放課後の解放感からか、普段はきっちりしている女子がスカートからワイシャツの裾を出していたり、ボタンを胸元まで外していたりと、学校とは違う「女性」を感じさせる姿に、俺のテンションは密かに限界突破していた。
(あー……うん。チャベス号で恥をかいた甲斐があったかもしれない。何もなかったけど、この空間にいられるだけで今日は最高だ)
一通り盛り上がり、店を出る。
駐輪場へと向かった俺たちは、ある異様な光景に足を止めた。
俺のチャベス号を囲むようにして、二人の男がしゃがみ込んでいたのだ。
一人はガッシリとした体格の角刈り。もう一人は派手な金髪。
どう見ても学生ではないし、強面の二人組だ。
「おい、やばいって、りん!」
背後から吉川とムツ、皆ちゃんまでが俺の服を必死に掴んで止める。
「クラスの男たち呼んでくるから待って! 一人で行くな!」
女子たちも不安げな表情で立ち尽くしている。
だが、俺にはわかっていた。あのシルエット、あの空気感。
俺は制止を振り切り、二人の背中に声をかけた。
「こんにちは!」
角刈りのお兄さんがゆっくりと立ち上がり、こちらを振り返った。
そして俺の顔を見るなり、真っ白な歯を見せてニカッと笑った。
「おお、楓じゃねえか! 今、これに乗ってるのはお前か?」
「はい。お久しぶりです、ブンタさん」
「千島は元気にしてるか?」
「兄は一人暮らしを始めてから家を出てるんで、最近は会ってないですが、おそらく元気にやってると思います」
ブンタさん――本名、菅原わたる。兄の悪友の一人だ。
兄ちゃんに叩き込まれた「条件反射的な礼儀正しさ」が、俺の口を滑らかに動かす。
「ブンタさんもお元気そうですね。兄から聞いてますが、蕎麦打ちの修行、大変なんですよね?」
「ハハッ、よく知ってるな。今度、俺が打った最高の蕎麦、食わせてやるからな」
今度は、隣にいた金髪のお兄さん――ジェーンさんが顔を上げた。
「ジェーンさんは自動車整備の仕事でしたよね? 俺、まだ原付ですけど、近い将来、車の時はよろしくお願いします」
ジェーンさんが嬉しそうに目を細めた。
「いやー、楓は相変わらず礼儀正しいな。俺たちのことを覚えててくれるなんて感激だぜ。ああ、俺もこんな弟が欲しかったわ」
ブンタさんが名残惜しそうにチャベス号のサイドカバーをポンと叩いた。
「悪いな、懐かしいバイクがあったもんだから、つい見入っちまった。この手榴弾のステッカー、まだ剥がしてねえんだな。悪いな、友達といたのに」
「いえ、俺もお二人にまた会えて嬉しかったです。また遊びに来てくださいね」
爽やかに手を振って別れる。
傍から見れば不気味な二人組に絡まれているように見えたかもしれないが、中身はただの「兄ちゃんの無鉄砲な仲間たち」なのだ。
二人が去った後、吉川、ムツ、皆ちゃんが血相を変えて駆け寄ってきた。
「大丈夫か、りん! 無事か!?」
「あ、ああ……大丈夫。兄の友達だよ」
どうやら、大切なチャベス号が悪党にいたずらされていると思い、俺が捨て身で追い払いに行ったと勘違いしていたらしい。
思いの外、吉川が真剣に心配してくれていたらしく、いつの間にかクラスの男子たちを総動員して救出チームを作ろうとしていた。
(吉川……お前、意外といい奴なんだな……)
少しだけ感動した。
だが、ふと周りを見渡すと、事の顛末を見届けようとするギャラリーが膨れ上がっている。この珍妙な「手榴弾バイク」の周りに人だかりができている状況が、猛烈に恥ずかしい。
そして翌日。
案の定、学校ではおかしな噂が一人歩きしていた。
『竜胆にはヤバい知り合いが多い』
『昨日の二人は、バックにいる本職の人間らしい。あのバイク、本物の手榴弾を隠してるんだろ』
――そんなわけあるか!!
どこからそんな話が湧いてきたんだ。
俺は疑いの眼差しを吉川に向ける。しかし、吉川は「口笛でも吹きそうな顔」で、露骨に目を逸らしている。
「……ムツ。吉川のこと、ちょっとしばいてくれないか?」
俺は隣にいた親友に助けを求めた。
が、ムツまでもが「俺、知らないっす」という顔で窓の外を見つめていた。
「ムツ!? お前までなぜ目を逸らす!」
振り返ると、皆ちゃんだけがコロコロと鈴を転がすように笑っていた。
昨日は、俺のことを本気で心配してくれるいい奴らだと思ったのに。
まさか二人揃って俺をネタに楽しんでいるとは!
広がり続ける風評被害。
チャベス号が呼び寄せたのは、旧友との再会だけではなかった。
俺の夢見る「小説のような甘い恋」が、また一歩、遠ざかっていく音が聞こえた気がした。
皆さま、大晦日いかがお過ごしでしょうか。
2025年最後の更新は、チャベス号が呼び寄せた「兄貴のやばい友人たち」のお話でした。
吉川とムツのせいで、りんの学校での評判がどんどん「そっち方面」に傾いていくのが不憫でなりません(笑)
さて、いよいよ明日は新しい一年の始まりですが、ここで皆さまに**重大なお知らせ**があります!
明日、**1月1日の元旦は、通常エピソードの更新をお休みさせていただきます。**
その代わりに……新年一発目のスペシャル企画として、なんと**「異世界交流コラボエピソード」**を配信いたします!
**【元旦 正午(12:10)頃 配信予定】**
**第24.5話:『【元旦特別編】正夢のドラグーン〜2人と奏でる異世界の初日の出〜』**
いつもの田んぼ道を走っていたはずのりんが、なぜか異世界の王様と出会い、さらには2人まで巻き込んでとんでもない場所へ……!?
そして、このコラボには「前編」が存在します。
今回の私こと武徳丸のもう一つの作品であるナバール視点のエピソードが、一足早く**明朝7:10**に公開されます!
**▼コラボ先:ナバール視点(AM 7:10頃 更新予定)**
『コンプレックスは最強の個性!? 〜二つの力を両立し、世界の架け橋となる王と愉快な仲間の行進曲〜』
https://ncode.syosetu.com/n6384ll/
ナバール側のタイトルは……
**『【元旦特別編】魔導門が爆発したら、氷点下25度の北海道で2トントラックに運ばれる件』**
……もう、タイトルだけで嫌な予感(?)しか見えませんが、ぜひ両方の視点からこの奇跡の元旦を楽しんでいただければと思います。
2025年も最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
2026年、元旦のコラボエピソードでお会いしましょう!
それでは皆さま、良いお年を!




