表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/59

第19話:柄にもなく

定期演奏会を終え、いよいよ新体制がスタートします。

新局長に就任した楓は、自分たちが引退した後の「未来」を見据えて真面目な話を切り出します。


 定期演奏会という大きな山を越え、三年生の先輩たちは正式に引退した。


 何人かは秋のコンクールまで籍を残して手伝ってくれるが、今日この瞬間からは、俺たち二年生がこの「吹奏楽局」という巨大な組織を動かす主軸となる。



 今日は、新しい組織図を決める重要な日だ。

 局長、副局長、そして各楽器をまとめるパートリーダー。


 俺はこれまで副局長を務めていた流れで、そのまま教室の教壇に立ち、司会進行役を務めることになった。


「さて、まずは一番大事なところからだ。新局長は誰がいいと思う?」


 俺が問いかけると、少しの沈黙のあと、誰からともなく声が上がった。


かえででいいよー」

「そうそう、楓がいいんじゃね?」


(……「楓で」いい、と言うな。「楓が」いい、と言え)


 俺は心の中で毒づきながらも、みんなの顔を見渡した。

 一応は民主主義の形を踏むのが、この学校のスタイルだ。


「……分かった。じゃあ、遠慮なくやらせてもらうわ」



 こうして、俺、竜胆楓が新局長に就任することが決まった。

 かつて兄・千島が君臨し、ボイコット事件まで引き起こしたあの「局長」の椅子に、まさか自分が座ることになるとは。



「さて、次は副局長だ。例年通り二年生から出してもいいが、やる気があるなら一年生でも構わないぞ。現に俺も一年の時からやってたしな」


 俺がそう言うと、最前列でミツルが勢いよく手を挙げた。

「はいっ! 自分、やらせてください!」


 ミツルはやる気だけは人一倍ある。それはいいことだ。

 だが、周囲の二年生たちの顔を見ると、なんとも言えない微妙な空気が流れている。


 ミツルのあの「ガムテープ事件」や「小窓事件」で見せた天然っぷりに、組織を任せるのは不安だ……という心の声が、あちこちから漏れ出しているのだ。



 みんなが不安になるような体制では、これからの一年は乗り切れない。

 俺は即座に、独断で方針を変更した。


「よし、分かった。副局長は二人体制にする。ミツル、お前ともう一人、二年生から選出させてもらうわ」


 ミツルが「えっ、二人体制っすか?」と目を丸くする中、俺は一人の女子に視線を向けた。


「サックスパートの井上さつき。さっちゃん、お願いしてもいいかな?」



 窓際の席で気だるげに頬杖をついていたさっちゃんが、驚いたように顔を上げた。

「仕方がないなー、形だけならいいけど……ゴニョ……」


 最後の方は照れ隠しで聞き取れなかったが、彼女は小さく頷いて引き受けてくれた。


 さっちゃんとは中学時代も同じ吹奏楽部で、彼女が部長、俺が副部長という関係だった。立場が入れ替わった形だが、彼女は非常に信頼できる人物だ。



 こうして新体制の骨組みが決まり、新しい吹奏楽局の形が固まった。

 いつもなら、ここで「よし、練習開始!」と号令をかけるところなのだが、俺にはもう一つ、確認しておきたいことがあった。


「悪いが、二年生だけ残ってくれるかな? 一年生は各自、パート練習に入っててくれ」



 一年生たちが不思議そうな顔をしながら音楽室を出ていき、室内は二年生だけになった。

 急に静まり返った部屋で、俺は改めてみんなに向き合った。


「大事なことだと思うので聞いておきたいんだけど……来年の定期演奏会で引退を考えてる人は?」


 俺やさっちゃん含めて、半分以上が手を挙げる。


「じゃあ、来年の秋のコンクールまで残るつもりがある人は?」


 ……いない。

 

「となると、来年の定演をもって、今の二年生は全員、この局から消えるってことだな」


 ハルちゃんを含め、数名が神妙な顔で頷く。

 俺は深く、重い息を吸い込んだ。


「ってことは、来年の今頃、俺たちが抜けた後の吹奏楽局は、今のミツルたち一年生だけで支えなきゃいけなくなる。それは、彼らにとってかなりの負担になると思うんだ」


 俺は一呼吸置いてから、少し熱を込めて続けた。


「だから、俺たちがいる間に、できる限りのことを残していこう。別に技術だけを教えろって話じゃない。あいつらが来年一人ぼっちになっても、『吹奏楽局にいて良かった』『先輩たちの後を継いで頑張ろう』って心から思えるような、そんな組織にしていこうよ。みんな、頼むね」



 一瞬、静寂が流れた。

 いつもはおちゃらけている俺が、柄にもなく真面目な話を語ったからだろう。


 ハルちゃんやさっちゃんが、他の部員たちの状況を把握してざわついていたが、やがて一人、また一人と、力強い頷きで応えてくれた。



「よし。話は以上。さあ、俺たちも練習に――」


 バタン!!


 勢いよく音楽室の扉が跳ね上がった。

 あまりの音に、全員が心臓を跳ねさせる。そこに立っていたのは、顧問の彦根先生だった。


「みんな、野球部が決勝まで行ったぞ! 全校応援だ! 吹奏楽局、今すぐ応援曲の練習に入るぞ!」


 彦根先生は、自他ともに認める大の野球好きだ。

 そういえばこの学校、なぜか野球狂の先生が異常に多い気がする。


「え、いつの話ですか、先生?」

「二日後だ!」


 ……二日後?

 うちの学校、いくらなんでもフットワークが軽すぎはしないか。


「で、大会の場所はどこなんですか?」


 俺の問いに対し、彦根先生は空いた左手で力強くガッツポーズを作って叫んだ。


「それがな、稚内だ! また遠征だぞ、お前たち!」



 ――稚内!!


 つい先日、高文連で行ってきたばかりじゃないか!

 その費用、まさかまた学校持ちだよな!?


 新体制の感動的な誓いは、北の果てから吹いてきた「野球」という名の暴風によって、あっけなく吹き飛ばされたのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます!


新体制、初日から波乱の予感です。

北海道の高校野球応援といえば、避けては通れない長距離移動と過酷な環境。

「柄にもなく」真面目な話をしていた楓たちを待ち受けているのは、再びの稚内でした。


果たして、最北の地で彼らを待ち受けているものは……?

次回、強風と熱狂の野球応援編、プレイボールです!

引き続き、応援よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ