閑話:特別な夜のパウダースノー
今回は、本編の激しいステージから少し離れて、箸休めの一時を。
定期演奏会の時期、楓が見た「少し不思議で、甘い夢」のお話です。
北海道の静かな冬の夜。
うたかたの時間をお楽しみください。
クリスマスイブ。
部活の帰り道、俺はハルちゃんと二人、並んで歩いていた。
空からは、さらさらと粉雪が舞い降りてくる。
ここは北海道の中でも屈指のパウダースノーが降る街だ。
街灯に照らされた結晶が、まるでダイヤモンドダストみたいに光っている。
「……俺さ、小さい頃、家から見えるスキー場のリフトの灯りを、ずっとサンタとトナカイのソリだと思ってたんだよね」
ふと思い出して口にすると、ハルちゃんがこちらを向いた。
「雪が降り始めるとリフトに灯りがつくでしょ? あ、サンタさんが準備を始めたんだなって。雪がなくなる頃に灯りが消えるから、ああ、帰っていったんだなって信じてたんだ」
クリスマスは、サンタさんが見える特別な日。
そんな子供じみた話をすると、ハルちゃんは口元を抑えてクスクスと笑った。
「ふふ、りんってば可愛いところあるじゃん。……でも、わかるよ。ずっと見てたくなるよね、そういう綺麗な景色」
家では必ず大きなツリーを出すこと。
ツリーを出している間は、茶の間に布団を敷いて、キラキラした飾りを見ながら眠りにつくのが楽しみだったこと。
そんな他愛もない話をしていた時だった。
「…………えっ?」
不意に、左手をハルちゃんに握られた。
彼女の手のひらの体温が、手袋越しでもはっきりと伝わってくる。
なんだこれ、と思いつつも、心臓の鼓動がうるさいほど早くなる。
冷たいはずの冬の夜風が、急に温かくなったような気がした。
「あ、そうだ。ハルちゃんにプレゼントがあるんだ」
俺は少し照れながら、小さな包みを渡した。
彼女にぴったりの、銀色に光るフルートのキーホルダーだ。
「ありがとう。……すっごく嬉しい」
喜んでもらえてよかった、と胸をなでおろしていると。
「私からも、プレゼント」
ハルちゃんから、綺麗な青いリボンを受け取った。
そして。
ハルちゃんが背伸びをして、俺の頬にそっと唇を寄せた。
――やべぇ、めちゃくちゃ幸せすぎる。
世界がこのまま止まってしまえばいいのにって、柄でもない言葉が出てきそう。
そう思った瞬間。
あたりが突然、眩しい光に包まれた。
我が家の『青い彗星』が、まるでエレクトニカルパレードのようにド派手な電飾でデコレーションされ、こちらに向かって爆走してくるではないか。
運転席から降りてきたのは、なぜか母さんだった。
母さんは俺の布団を力いっぱい剥ぎ取って、仁王立ちでこう叫んだ。
「あんた、朝だよ! 今日、終業式でしょ! 早く起きなさい!」
…………。
あー、やっぱり。そんなことがあるわけないか。
俺はぼんやりした頭で、学校へ行く準備を始めた。
茶の間には、昨日まで俺を癒してくれていたクリスマスツリーが静かに立っている。
「…………あれ?」
視界の端で、何かが揺れた。
ツリーの枝の先。
そこには、夢の中で見たはずの、見覚えのある「青いリボン」が、ぽつんと一つ、大切そうに結ばれていた。
最後までお読みいただきありがとうございました!
激動の定期演奏会の裏側で、楓はこんな不思議な体験(?)をしていました。
お母さんの「青い彗星」の登場で現実に引き戻されましたが、最後に残ったあのリボンは一体……。
皆様の想像にお任せしつつ、物語は再び演奏会のフィナーレへと戻ります。
次回、第18話「紡いできたもの」。
華やかなステージの裏側で、楓が見せた「副局長としての意地」を描きます。
引き続き、応援よろしくお願いします!




