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第16話:伝説のOB

ついにやってきた、吹奏楽局最大の晴れ舞台「定期演奏会」。

局内に語り継がれる「伝説のOB」たちも助っ人に参戦!

今回はどんなハプニングが起こるのかな?

 高文連の翌週は、もう定期演奏会だ。


 市民会館ホールでの本番当日。

 一年の活動の集大成を見せる、わが吹奏楽局最大の晴れ舞台がついにやってきた。


 十三時開場、十三時三十分開演。

 本番前の最終リハーサルを考慮し、集合時間は朝九時だ。


 まずは学校の楽器庫から、巨大な打楽器や重いアンプ、譜面台の束をトラックに積み込む力仕事から一日が始まる。



 そう、ここで颯爽と現れるのが、わが家の愛車『青い彗星』だ。


 このトラック、実はただのボロ車ではない。

 レンタカー料金をカットして浮いた予算を局のバーベキュー代に回せるだけでなく、俺が事前に役所へ連絡し、警察にも道路使用の届け出を済ませてある「特例車両」なのだ。


 つまり、荷台に人を乗せて公道を走ることが公式に許可されている。



 これが局員たち、特に一年生にとっては、ディズニーのアトラクション並みに大人気だった。

 積載スペースと安全を考慮し、定員はMAX三人まで。

 積み込み作業が終わると、いつも女子部員たちが「乗ってみたい!」と目を輝かせて集まってくる。


「乗るのはいいけど、スカート気をつけろよ。段差で跳ねたら一発で見えちゃうからな」


 俺が注意を促すと、ジャンケンで勝ち残った三人の女の子たちが「大丈夫ですよー!」と笑いながら、不安定なアオリを器用に越えて荷台に収まった。



 そんな中、ミツルが真剣な顔で女の子たちを見守っている……と思いきや、だ。


「……ゴラァ! ミツル! お前、さりげなくロープの位置を確認するフリして、下から覗こうとするな!」


「げっ、バレました!? 先輩、ずるいっすよ! 俺だってあのアトラクション席に座りたいっす!」


 鼻の下を伸ばして訴えるミツルに対し、俺は勝ち誇った顔で言い放つ。


「ズルい? これは俺が手配した、うちの家のトラックだ。文句があるなら、まずは自前でトラックを所有してから言うんだな!」


「そ、そんな殺生な……。トラックなんて高校生が買えるわけないじゃないっすか!」



 ミツルの情けない叫びを置き去りにして、トラックはゆっくりと動き出す。

 荷台から見るいつもの通学路は、視点が高くなるだけでまるで別世界に見えるらしい。


「うわ、風が気持ちいい! 眺め最高!」

「ちょっと、髪の毛ボサボサになっちゃうよー!」


 はしゃぐ女子たちの声が、初夏の青空に吸い込まれていく。



 運転席には兄の千島チシマ、助手席にはその友人の九十九ツクモさんが座っている。二人とも、元吹奏楽局の「伝説」と呼ばれるOBだ。


 彼らのレジェンドっぷりは、今も局内で語り草になっている。

 かつてアンサンブルコンクールにおいて、八人編成での全道大会出場が決まった際のこと。

 なんと本番直前にメンバーの一人が赤点を取りすぎて「公欠」が認められず、一人欠けるという絶体絶命のピンチに見舞われた。


 しかし、七人でステージに立った彼らは、欠けた一人の音を補って余りある圧倒的な実力を見せつけ、見事「金賞」を受賞したのだ。



 さらに、兄たちの破天荒なエピソードはこれに留まらない。

 当時の顧問は吹奏楽連盟の理事を務める権力者だったが、非常に高圧的で、生徒を自分の実績のための道具としか思っていないような男だった。


 全道大会の大編成部門。

 その当日、当時局長だった兄は驚天動地の決断を下した。


「あんな顧問の指揮で吹くくらいなら、辞めてやる」


 なんと、部員全員を引き連れて出場をボイコット。

 審査員仲間に囲まれた顧問のメンツを、全道大会の会場で文字通り木っ端微塵に粉砕したのだ。



 そんなパンクな血筋を持つレジェンド二人組の協力もあり、ホールへの楽器搬入は驚くほどスムーズに完了した。


 全員でのミーティング後、兄と九十九さんから粋な計らいがあった。


「演奏会は体力がいるからな。これ、差し入れだ。しっかり飲んで本番に備えろよ」


 差し出されたのは、大量の栄養ドリンク。

 部員たちは「ありがとうございます!」と元気よくお礼を言い、気合を入れるように次々と飲み干していった。


 これでエンジン全開、準備万端――のはずだった。



 ところが。

 リハーサルが開始されてしばらくした頃、俺のところに各パートから続々と切実なクレームが寄せられ始めた。


「……ねえ、りん。なんか、練習してたら楽器が臭くなったんだけど」

「マウスピースから、さっきの栄養ドリンクの匂いが立ち上ってくる……。酔いそう……」



 ……あ。

 やってしまった。



 栄養ドリンク特有の、あの強烈なビタミン臭と甘ったるい香り。

 それを飲んだ直後に管楽器を吹けば、吐息と共に成分が管内に充満し、マウスピースから楽器の奥深くまで匂いがこびりつくのは、物理的な必然である。


 ごめんなさい。

 兄も九十九さんも、決して悪気があったわけではないんです。


 ただ、兄は打楽器奏者パーカッションなもので。

 口を使って音を出す管楽器奏者の、唇のコンディションやマウスピースの「風味」といったデリケートな事情にまで、全く頭が回らなかったのだ。



 女子部員たちは、俺の申し訳なさそうな顔を見てなんとなく察したのか、苦笑いしながらも静かに歯を磨きに行っていた。その潔い引き際に、俺は心の中で深く感謝する。


 それに引き換え、「うぇー、口の中からビタミンの嵐が吹き荒れてるっす!」などといつまでも騒ぎ立てている男子諸君。

 そういうデリケートな機微を読み取って、そっとフォローに回れないようじゃ、一生モテないぞ!



 伝説のOBたちが残した「強烈な残り香」に包まれながら、定期演奏会の一日はまだ始まったばかりだ。

 俺たちのステージは、波乱の予感を孕んで幕を上げる。

最後までお読みいただきありがとうございます!


「栄養ドリンクと管楽器の相性の悪さ」、これ、吹奏楽部の方なら一度は経験がある(あるいは想像して震える)のではないでしょうか?

OBの千島と九十九という、物語のスパイスになる強力な新キャラも登場しました。

果たして楽器の匂いは本番までに取れるのか!?


次回、波乱含みのステージ本番へ!

引き続き、ブックマークや評価での応援をよろしくお願いします!


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